インタビューほか

<長岡弘樹インタビュー> 消防士の心理を描くミステリ短篇

「オール讀物」編集部

『119(いちいちきゅう)』

『119』(長岡弘樹 著)

 警察学校を舞台にし、来春ドラマ化もされる『教場』をはじめ、鮮やかなトリックと心理の機微を描いて読む者を魅了する長岡弘樹さん。今回、新作のテーマとしたのは「消防士」だ。

「もともといろんな職業に興味があって、職業の専門的な部分に焦点を当てた作品を書きたいと考えていたんです。消防士はミステリのアイディアが湧きますし、過去に消防士を扱った短篇で手応えもあったので、選びました」

 作品の舞台は「和佐見消防署」。救急係の今垣睦生(いまがきちかお)は、帰宅の途中、川原で石を拾う女性を見かけ声をかける。彼女は自殺しようとしていたのだった。

「最初に『石を拾う女』を書いて、今垣という人物がとても気に入ったんです。観察眼が鋭く、消防士として頼りになる。まず人を救うシーンが書けたこともよかった。それで、彼をこの連作短篇の柱となる人物にしました」

 死亡事案にあったことがなく“無敗”を誇っていた新人の土屋だったが、初めて現場で死者が出てしまう。同じ現場に出動していた先輩・栂本(つがもと)から全員分の防火服を洗うよう命じられ、訳も分からずに従う土屋。栂本の行動の理由とは――(「白雲の敗北」)。

 火災現場という緊迫した状況だからこその意識下の行動や、消防士同士であるが故にわかる仲間の心理。それらがミステリに上手く組み込まれる。

「災害や火災など、悲惨な状況をたくさん見ることで心を病んでしまう『惨事ストレス』に晒(さら)されている消防士も多いと聞きます。ですから、人を救うヒーローである反面、一人の人間として傷ついている部分も書きたかったんです。同じ職業だからこそ生まれる忖度(そんたく)や思いやり、言葉がなくても互いに通じ合うところも、表現したかったことの一つですね」

 九篇の短篇一つひとつに、多彩なネタが盛り込まれているのも読みどころだ。

「ネタは主に書籍から集めます。消防の専門誌『Jレスキュー』も好きで買い集めました。ただ、とにかく広く浅く読むことが多いので、消防と関係ない文献から消防に関わるネタを見つけてくることの方が多かったですね。できるだけいろんな話と消防士を結びつける、その距離が大きければ大きいほど、意外な展開が作れるんです」

 今後扱ってみたい職業を訊ねると、

「ありすぎて困っているんですが、珍しい学問をやっている学者なんか面白そうですよね。あと、妻が食品の研究をしているのですが、以前は全く興味がなかったんです。でも、いろんな職業のネタを集めていくうちに、食品学にも興味が湧いてきました(笑)」


ながおかひろき 一九六九年生まれ。二〇〇三年「真夏の車輪」で小説推理新人賞、〇八年「傍聞き」で推理作家協会賞。一三年『教場』で週刊文春ミステリーベスト10第一位。

こちらのインタビューが掲載されているオール讀物 7月号

2019年7月号 / 6月22日発売 / 定価980円(本体907円)
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119長岡弘樹

定価:本体1,500円+税発売日:2019年06月07日