- 2019.11.18
- コラム・エッセイ
自分の信念を曲げられずに日々会社で戦っている、すべての働く人へ
朱野 帰子
『科学オタがマイナスイオンの部署に異動しました』(朱野帰子・著)
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
似非科学と戦う孤独な主人公
いっそ、科学から遠いところにいる人にしたらいいのではないか、と思っているうちに、「文系で、成果主義」というかつての自分と同じ会社員の設定が浮かびました。だからこそ、短期的な成果を求めない科学への憧れとリスペクトを持っているという人物ではどうだろう。
さらに彼の勤務先の大手電器メーカーでは似非科学商品を製造していて、彼はその部署に異動になってしまします。加えて、実家にいる美人の姉も似非科学を信じやすいタイプです。
そんなアウェイな状況で、彼はどうやって戦えばいいのか。
「それは似非科学だ!」と正面から指摘できるのはネット上くらいで、リアル社会でそんなことをしたら周囲から煙たがられるのが常です。
……だったら思い切って、そういう面倒なタイプに振り切ったらどうだろう。似非科学と戦うたびに孤独になっていく主人公というのも面白いのではないか。その彼が最後、たった一人だけでも、大事な人を守れたとしたら。そして、自分の勤める会社も、ついでに科学の世界も少しだけ変えることができたなら……。
そうやって、『賢者の石、売ります』という単行本ができました。賢者の石はどんな傷も病もたちどころに癒すアイテムとして知られていますが、現実にはそんなものはありません。もし売られていたとしたら、それは似非科学なのです。でも、どこかに万能なものがあればいいなと思ってしまうのが人間。