『木になった亜沙』(今村 夏子)

 どうしても、自分の手から食べてもらえない亜沙。願いがかなって杉の木に転生し、わりばしになって若者に出会う――。

 表題作を読んで、私はほとんど打ちのめされました。

 新しい小学校で給食の時間がつらかったことを思い出しましたし、コンビニでわりばしをもらっては捨ててしまう自分を反省しました。若者と亜沙の食事の場面では、ほんとうによかったと涙ぐみました。それなのに……。

 亜沙たちにあれほど愛されて、若者は、しあわせだったのか。ワイルドの『幸福の王子』を読んだあとのような、しずかなさみしさが、今も心から去ってくれません。

 なにか自分の行動を変えるきっかけになりそうな力を秘めた小説――。今村夏子さんにしか描きえない、究極の愛の短篇集です。