――チミドロに対する長年の人類の闘いがあるなかで、瑞樹という女性研究者の行動の顛末を書こうと思ったのはどうしてですか。
貴志 物事が変化して結末を迎えるのが物語ですが、この場合あまりにも状況が大きすぎるので、物語の中で経過する時間はごくごく小さな点でしかないわけです。その中で少しでも救いに向けたベクトルを示したかったんですね。主人公の行動を描きたかったというよりも、描きたかったのは状況です。その中で、主人公たちがどっちを向いているのか、ということを書きました。
――人と人が隔離されるなど、新型コロナウイルスの感染が広がる現状を連想せずにはいられませんでした。それに、危機的状況では人のエゴがむき出しになるんだなと改めて感じました。ある出来事をめぐり訴追委員会が開催される場面がありますが、それも論理的に検証が進むというより感情に流されていて……。
貴志 人間性に信頼を強く持っている方は、疫病が流行ったとしても人間同士は信頼を失わずにいくはずだ、と言うんですよね。ところが新型コロナの現状を見ても、もう世界中で人間の醜さがむき出しになっている。だからチミドロや、あるいは他の病原体が蔓延するような状況になれば、人間は美しい連帯を保ってばかりはいられないんじゃないかなと思います。
訴追委員会の場面は、日頃社会を見ていて感じたことそのままを書きました。政治家だけではなく、多くの人がこういう議論しかしてないんじゃないのかなと思います。結局すべてがポジショントークですよね。自分を守りたいだけで、それによって論理をいかようにでも操るという。
毎週、人類が滅亡する話を読んでいました(笑)
――今回、SF作品はどれも終末の世界を描いていますよね。
貴志 次から次へとSFを読んでいった頃にいちばん惹かれたのが終末ものでした。毎週毎週、人類がいろんなやり方で滅亡していく話を読んでいたわけです(笑)。輝きというのは終末の時にはじめて現れるのかなという気がするんですよ。繁栄している時にはなんともないと思っていたようなことが、突然輝きを持ってしまう。『渚にて』なんていう、映画にもなった作品がありますよね。