――面白そう。スチームパンクや奇妙な味はいかがですか。
深緑 スチームパンクも、小説より映画が多いかも。私が一番好きなのはジャン=ピエール・ジュネとマルク・キャロが監督した映画『ロスト・チルドレン』です。『天空の城ラピュタ』もスチームパンクですよね。小説では児童書が多いのかな。新☆ハヤカワ・SF・シリーズの『リヴァイアサン クジラと蒸気機関』(スコット・ウエスターフェルド)は本当に面白いスチームパンク。
奇妙な味は短篇が多いですね。創元推理文庫のアンソロジー『街角の書店(18の奇妙な物語)』にはフレドリック・ブラウンやシャーリイ・ジャクスンの短篇が入っています。それと、ジェフリー・フォードが好きなんですよ。傑作選『言葉人形』が特に気に入っています。他にはスタンリイ・エリンの『特別料理』とか、「豚の島の女王」(『壜の中の手記』所収)のジェラルド・カーシュとか。「豚の島の女王」は奇妙な味とはいえないかもしれないけれど。
――各話、そうした物語世界での冒険を楽しませてくれますが、全体を通して、ブックカースにまつわる謎も浮かび上がってきますよね。その謎解き的な味わいについては、どんなスタンスだったのですか。
深緑 ミステリーを書く気は全然なかったんです。これまでの本でさんざん「本としては面白いけどミステリー部分が邪魔」と言われてきましたし。でもミステリーの作り方って論理的だから役立つこともあって、「これ進研ゼミでやったやつだ!」くらいの気持ちにはなります(笑)。
だいたい、何かを論理的に説いていこうとするとミステリーっぽくなりますよね。それを自分で「これはミステリーです」と言うと「こんなのミステリーじゃない」と言われるので、最近ちょっと拗ねていて(笑)。今回は自分では一言もミステリーとは言っていませんが、ミステリーとして面白く読んでもらう分にはそれはそれで嬉しいです。
――謎の解明や伏線の回収を楽しみました。ああいう細かな設定は最初に構築しておいたわけですよね?
深緑 いや、あんまり。第一話はわりとかっちり考えていたんですけど、最終的にすべての元凶となる泥棒は誰なのか、考えないで書き始めましたし。あまり決めずに話を転がしていったので、途中で登場する蛍子さんやしめじ青年といったキャラクターも書いていたら出てきた、という感じです。もちろん、改稿する時に矛盾していたところや回収できていないところは直しましたが、それでも、今回はミステリーに関して厳密さを持たずにやったので、自分でも楽しく書けました。