2022年5月22日、第9回高校生直木賞の本選考会が開催されました。全国から過去最多となる38校が参加し、逢坂冬馬さんの『同志少女よ、敵を撃て』を受賞作として決定。小説について熱く語り合った高校生たちの感想文を、3回にわけて掲載します。今回は品川女子学院高等部、 中央大学杉並高等学校ほか、9校をご紹介します。
品川女子学院高等部(東京都)尊田優花「読書の世界が広がった」
私が高校生直木賞に参加しようと思ったのは、加藤シゲアキさんの『オルタネート』が昨年の高校生直木賞を受賞したことがきっかけでした。私自身、それまでは「文学賞作品は堅苦しくて大人が読むもの」というイメージが強く、あまり参考にせずに自分の好みに合った本ばかり読んでいました。その中の1つで特に印象に残っていた『オルタネート』が高校生直木賞を含めた様々な文学賞にノミネートされ、受賞したことにより自分にとって文学賞というものが身近になり、参加を決めました。
実際に参加をしてみて、私は3つのことを経験できました。
1つ目は、「普段自分が選ばないジャンルの小説を読む」ということです。高校生直木賞に参加するにあたって、全員が候補作を全て読みます。その中には、自分が普段あまり読まないようなジャンルもいくつかあり、読みにくかったり難しく感じたりもします。ですが、そのような作品も読んでみることによって新たな出会いや気付きを得ることができました。
2つ目は、「作品について人と議論をする」ということです。本戦で議論したことを例に挙げると、『テスカトリポカ』のグロテスクさを高校生に薦めて良いのかや、『同志少女よ、敵を撃て』の戦争小説にしては爽やかに描かれている点など、プラスに捉える人もいればマイナスに捉える人もいて、本当に色々な考え方があるんだなと実感しました。また、たくさんの感想がある中で、自分と同じように感じた人がいた時は何か通ずるものを感じて嬉しくなりました。
そして3つ目は、「1冊1冊を深く読み、よく考える」ということです。私は、この高校生直木賞をきっかけに読んだ本の要約や考えたことをメモする「読書ノート」を書くようになりました。このノートで大切にしていることは、読み終わった時の素直な感情を自分の言葉で言語化していく、ということです。これによって読んでいる時には気づかなかった伏線や魅力に気づくことができ、1つの作品をより楽しめるのです。
高校生直木賞は、私にとっての文学賞がとても身近なものになったきっかけであり、読書の世界が広がる経験となりました。貴重な機会をありがとうございました。
中央大学杉並高等学校(東京都)當間萌映子「“この作品が一番好き”という気持ち」
私は元々、本の感想を言語化するのが好きではありませんでした。文庫本の後ろについている解説もあまり好きではなく、読むことは少ないです。物語を読んで得た感情は言語化してしまうと途端にチープなものになってしまう気がして、ふわふわとさせたままで自分の中に留めておきたいのです。
しかし、今回ばかりはそんなこと言っていられませんので、とことん言語化しました。言葉にするのは不慣れでしたが、自分の高校の人達とそれぞれの作品の良さ・悪さについて話し合い、それをまとめておいたおかげで本番でもなんとか話すことができました。
それでも、結局私が『同志少女よ、敵を撃て』を推した理由の大部分は、「この作品が1番好き」という気持ちでした。
中央大学杉並高校代表として出させていただいた手前、自分の気持ちでゴリ押ししたのは若干申し訳なさはありますが…汗。
言いたいことを好き勝手言って、画面の向こうで同年代の人達が頷いてくれるのを見て、なんだかとても温かい気持ちになりました。
同じ作品を読み、様々な思いを持った同年代の人達と熱い討論を交わすことができて、とても楽しかったです! 貴重な経験をさせていただきました。
今回候補作になっていた6作品、是非全てみなさんに読んでいただきたいです。
田園調布学園高等部(東京都)菅原さくら「濃密な時間」
沢山の高校生たちと意見交換をした4時間は、とても濃密な時間でした。Zoomだったこともあってか、皆で各々の本の感想を言い合っていく、というような印象が当初は強かったです。しかし、それでもほかの人の感想によって自分の印象が変わった本が多くあり、「これが対面で話し合えたらもっと迫力があっただろうな」という高揚感を数日経った今でも思い出します。
特に受賞作となった『同志少女よ、敵を撃て』に関しては、とても意見が分かれました。
人同士の感情に焦点を当てた本作には「戦争小説にしては爽快感、エンタメ性が強すぎる」と戦争に対する曲解を懸念した人や、「事実をその通りに描くと、苦しくてやめてしまう人もいるはず。これを最後まで読んで、何を感じたかを語り合ってこその作品だ」と本を読んでからのちの行動までを含んで作品を評価している人もいました。
私は、この本に対しては、「読んだ後に生まれた気持ちを大事にして欲しい」、と受賞作を推した身として強く感じています。
戦争小説は、その時いた「誰か」に焦点を当てて、一個人として戦争を追体験できるものだと思います。
「誰か」の視点で見たときに感じた感情を、授業で第二次世界大戦を学ぶとき、ニュースでウクライナの戦争が取り上げられた時に思い出すことにこそこの本の価値はあり、それこそ高校生直木賞に選ばれた理由だと考えます。
■品川女子学院高等部(東京都)尊田優花「読書の世界が広がった」
■中央大学杉並高等学校(東京都)當間萌映子「“この作品が一番好き”という気持ち
■田園調布学園高等部(東京都)菅原さくら「濃密な時間」
■都立国立高等学校(東京都)内田りさ子「高校生直木賞を通して広がった視野」
■東京純心女子高等学校(東京都)松元すみれ「言葉が届いた瞬間」
■都立南多摩中等教育学校(東京都)舘山千晶「どのような視点から本を語るか」
■渋谷教育学園渋谷中学高等学校(東京都)吉田光都希「言葉に真摯に向き合う」
■横須賀学院高等学校(神奈川県)棚橋奈那子「高校生が本を評価することの意義とは」
■向上高等学校(神奈川県)會澤さとみ「普段は抑えてしまう本への熱量をそのまま……」
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