言葉が焼きつく感覚
短歌は言葉の濃縮果汁。詠み手の感性をぎゅぎゅっと絞って、絞って、ぽたんと一滴、また一滴としたたり落とすように練られた言葉たち。五七五七七、たった31音から無限に広がる豊かな世界は、普段本を読まない人にもお勧めできます。
アニメ、漫画、ゲーム、SNS、今は魅力的なコンテンツがたくさんあって、その中でたまには本を読もうかなと思っても、どこから手をつけていいのかわからない高校生の皆さん、結構いるんじゃないでしょうか。読書の世界は奥深く、入口もたくさんあって、活字に慣れていないと読むのにも時間がかかる。少し間を空けるとそれまでのストーリーを忘れてしまっていて、結局そのまま積読になってしまった、という話もよく聞きます。読書にも慣れがあって、最初は一冊読み通すことが一番のハードルかもしれません。
その点、どこから開いてもいいし、どこで閉じてもいい短歌集はとっつきやすい。なにより木下龍也さんが紡ぐ言葉は、今を生きるわたしたちととても近いところに在ります。『オールアラウンドユー』の中で、難しい言葉は使われていない。真っ直ぐ、濃く、「この気持ち、なんだかわかる」というシンプルな威力で胸ぐらをつかんで揺さぶってくれます。
10代のころ、わたしが銀色夏生さんの詩に出会ったときの衝撃はすごかった。まだ語彙も豊富じゃない、でも感覚だけは尖りまくっていて、言葉でうまく発散できずに膿んでいた心の真ん中に、言葉の形をした矢がストンと刺さったように感じました。
言葉が、文字が、自分の中に鮮やかに焼きつくあの感覚を味わったら、もう読書の扉は開かれたも同然。本を読むことはけっして難しいことじゃない。知識がないとわかりづらいものもあるけれど、それは年を重ねてからでも充分間に合うので、最初はひたすら言葉と遊んでほしい。読書の楽しみを友達に伝えたいときにも短歌集はとてもよい。
「オール讀物」2023年7月号より転載