インタビューほか

伏(ふせ)をめぐる小説と絵の世界
桜庭一樹×鴻池朋子

「本の話」編集部

『伏――贋作・里見八犬伝』 (桜庭一樹 著)

鴻池 ある意味、もちつもたれつの関係ですよね。

桜庭 単行本で作中作にした森の部分は、連載中では過去の物語として始まっているんですけど、連載時の挿絵にあった本の中に森があるという絵が、作中作にしてみると本当にぴったりだったなぁと思いました。

鴻池 そうですね。桜庭さん以外の誰かが書いたという感じがしたというと変なんですけど。江戸時代に入ると、あの章が冥土(めいど)の書いた入れ子的な物語だったとわかるわけじゃないですか。物語が進んでいって、なんだかちょっと作者が直接書いていないような不思議な感覚がしたので、絵の中に本を描き、更にその本の中に森を置いた絵を描いてみたんです。

桜庭 察して描いて頂いたわけですね。あと、一度、週刊編集部の「伏」に関わる人と鴻池さんとで大勢で食事をしたことがありましたが、あのあとその場にいた人を登場人物のモデルにしたんですよね。

鴻池 冥土はデスクの方で、担当さんは信乃(しの)で。信乃は最初鶯色(うぐいすいろ)の頭巾を被って出てきたんだけれど、歌舞伎の場面になって前髪があるという描写が出てくる。それでもう担当さんはモデルとしていなくなりました。その辺りから、「伏」というキーワードがあれば、実在の人間じゃないほうが描ける気がしましたね。

桜庭 (「浜路(はまじ)」のイラストを指差して)これは私ですよね。

鴻池 桜庭さんの顔をダウンロードして……。

桜庭 ダウンロードまでしたんですか! 会ったときの印象で描かれたのかと。

鴻池 とりあえずよく見たいので。色々なパーツを大きくして、でも雰囲気は似ている感じに。私が見た写真は前髪をピンで留めていて、おでこがちょっとでこっていて、その感じがすごく好きで……。
江戸時代の部分は登場人物がとにかく多かったですね。江戸時代というのは様式がはっきりしていて、髪形や着るものの柄までも職業や階級によってばっちり分かれて決まっている。それまでの伏姫の時代の空気感、あの中世の大らかさから、いわば細やかな日常の賑わいの様式美の世界になったので、江戸の資料を見ているうちにつまらなくなって、一回気持ちを切り替えたんです。「ブレードランナー」とおっしゃっていたので、一線踏み越える感じで、時代錯誤的なものをもってきても、本質的な桜庭さんの世界観が間違っていなければ嵌(はま)るんじゃないかなと思ってやりました。

桜庭 吉原の門もゴシック様式っぽいですよね。ヨーロッパにあるような。

鴻池 ガウディとかね。


桜庭 一樹・著

定価:1700円(税込) 発売日:2010年11月27日

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