インタビューほか

伏(ふせ)をめぐる小説と絵の世界
桜庭一樹×鴻池朋子

「本の話」編集部

『伏――贋作・里見八犬伝』 (桜庭一樹 著)

桜庭 私も和風ゴシック的に江戸時代を書きたいと思っていたので、そういう意味ではぴったりでした。江戸時代といってもちょっと外国風に。江戸時代の絵ではちょっとコミカルなものもありますよね。浜路が地下道に落ちていく絵や、滑稽本や瓦版に描かれた「正体不明の犬人間」の絵とか。

鴻池 この画家はどうしたんだ? って、まじめに描いていないと思われるような面白さがあると。まじめにたんたんと描いているのに、どうしてもおかしみがこみあげてくる。おそらく小説を読むというのは、文字を読むより、その文字の書かれた背後にあるものから浮かび上がってくるものをキャッチすることだから、この作家は何か面白いものが根底にある気がして、それが絵にぽんと出てきてしまったというか……。「正体不明の犬人間」というようなおかしさが、小説の中にもあるということなんじゃないかと思うんですよ。

桜庭 確かにそうですね。あと、鴻池さんの絵では、やっぱり鈍色(にびいろ)に驚きました。

鴻池 すごく醜い少年と書かれていましたよね。醜いと綺麗などの対比は昔からありますが、桜庭さんはどういうふうに捉えていたんですか。

桜庭 演劇的に物事を捉えたり、戯曲を読んだりするのがもともと好きなんですが、戯曲にはすごい美人の役とかものすごい醜い役とか多いですよね。そういう極端な役割の配置に興味をもっていて、もともと醜い人間のその醜さというのは、本当は内面のコンプレックスだったり、自分の属する世界になじめないという苦しみだったりする。それを表現するときに、舞台に立たせるようにビジュアルにして分からせるのが好きなんですね。伏姫も、世界から歓迎され、馴染んでいるときはすごく美しい人になり、その世界から浮き始めると、だんだん醜くなってくる。片目がつぶれたりして……。

鴻池 鼻はひどく団子で眉はげじげじで、頭は大きく体はすごく小さい歪(いびつ)な感じの子と、鈍色の表面的なことを描けば描くほど、その背後にあるものが浮かび上がってくる感じはしました。醜いってどういうことで書いているのかなと。

桜庭 『シラノ・ド・ベルジュラック』が好きなんですが、醜い男の表現でヒマラヤのように鼻が高いなどとあって、おそらく演ずる方は、ちょっと鼻を高くして舞台に出られるだけだと思うんですけど、実際ヒマラヤまでじゃなくても、言葉や文字ではそういう表現で、本質はそういう人だとわからせるというのはあると思うんですよね。

鴻池 私は文章を読むのがすごく遅くて、何がこうしてこうなったということの意味まで理解するのが人より遅いので、文学的なものにはあまり興味がないんですが、文字の型とかビジュアル的なものには吸い寄せられるんですね。そういう意味で、吸い付くように頁を捲(めく)って、この頁が好きだとかいいとかで、そこから読み始めて前に戻ったりすることもあります。文字との違う出会いなんですね。桜庭さんの文章の中にも、先ほど演劇的にとおっしゃったけれど、そういったかたちで吸い寄せられるところが出てくるので、そこを掴(つか)みさえすれば、物語の空気感をキャッチできたんです。今さらですけど、「伏」というタイトルはいいですよね。

桜庭 一文字のタイトルは初めてなんです。

鴻池 週刊誌の第一回で「伏」のタイトルを、惑星つまり地の中に埋められた人と犬にして描いたんですが、タイトルがすべてを物語っているというか……。


桜庭 一樹・著

定価:1700円(税込) 発売日:2010年11月27日

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