2026年10月放送予定の日本テレビ系連続ドラマ『俺たちの箱根駅伝』。ベストセラー作家・池井戸潤さんが十余年をかけて書き上げた渾身の原作を、箱根駅伝の生中継を続けてきた日本テレビが、関東学生陸上競技連盟(関東学連)の協力を得て映像化するという、前代未聞のプロジェクトだ。

 出演者も主演の大泉洋さん、伊藤沙莉さん、山下智久さんらが続々と発表され、箱根駅伝に挑む学生役キャスト18名にも注目が注がれている。彼らは関東学連副会長であり、神奈川大学陸上競技部監督でもある大後栄治氏の指導・監修のもと、数か月にわたる本格的な陸上トレーニングや合宿を重ねてきた。

 なかでも武蔵野農業大学・猪又丈役を演じる俳優の庄司浩平さんは、バスケットボール一筋だった身体を、数か月の間に長距離ランナーのそれへと変貌させ、大後氏も驚嘆するほどの進化を見せている。読書家としても知られ、女性誌に書評連載も持つ庄司さんに、ドラマを通じて出会った小説『俺たちの箱根駅伝』、さらに作品の魅力について話を聞いた――。

池井戸作品に感じる“二軸構造”の面白さ

――池井戸潤さんの作品はこれまでにも読まれていたそうですね。

庄司: 以前から好きで何冊も読んでいますが、特に『陸王』が印象に残っています。池井戸先生の作品に共通しているのは、ひとつの軸だけで物語が進まないところです。 たとえばシューズなら、それを作る側とそれを使う側。今回の『俺たちの箱根駅伝』でいえば、箱根駅伝を走るランナーと、それを放送するテレビ局側というふたつの軸が同時に進んでいく。

 オーディションの段階では、具体的な作品名が明かされていなかったこともあり、実際に原作の『俺たちの箱根駅伝』を読ませていただいたのは、出演が決まってからです。やはり単純な青春作品や感動話では終わらせない、その二重構造のアプローチに、池井戸先生ご自身の「らしさ」をすごく感じました。

バスケットボールから陸上長距離競技の走りへ

――昨年行われたオーディションでは、実際に「走り」の選考もあったと聞いています。

庄司: はい、実際にその場で走ってからお芝居へ、という流れでした。走ることについては、僕はバスケットボールを10年近くやってきたので、切り返しの多い競技特有の走り方が染みついてしまっています。一定方向に同じペースで走り続ける、長距離の走り方とはまったく別物で……。

 1回目のオーディションでは、陸上指導をされる大後先生から「地面に近い走り方だ」とご指摘をいただき、肘の引き方や足の接地のタイミングについてアドバイスをいただきました。でも、染みついたフォームはそう簡単には変わらない。「肩甲骨を寄せるように」「足は前ではなく真下につけるように」と言われて、頭では分かってもすぐに身体がついてきませんでした。

 だから、次に呼ばれるまでの間になんとか走りを改善しようと、画像を撮ってはそれをチェックし、どうすれば陸上選手らしい走りが出来るか、ずいぶんトライ&エラーを繰り返しました。2回目に大後先生にお会いしたときには、何か言われる前に「まず今の走りを見てください」と自分から申し出て、1本走ったら「もういいよ」と言っていただけました。

――走り方の修正だけでなく、身体づくりも相当ストイックだったようですね。

庄司:この間体脂肪率を測ったら 3%と出て、さすがに「これはもはや」となりましたけど(笑)。 撮影が本格的にはじまる前の12月までは、食品栄養の専門の方にもサポートしていただきながら、とにかく体脂肪を落としていく段階でした。

 撮影が始まってからはキープに切り替えて、お昼にご飯を食べたなら夜は抜く、ただし夜にまったく食べないのも良くないから180グラムは取る、というように、糖質と脂質を数字で組み立てていく。そういう論理的な組み立てができれば、逆にあまり悩まずにいられるんです。

 途中で怪我をしてしまったことは想定外でしたが、バスケットボール選手時代にも足首の靭帯を1本断裂していますし、膝の故障もありました。スポーツをしていれば怪我は付き合っていくもの、そこはアスリート的思考で向き合うしかないと、前向きに考えるよう努めました。

「陸上競技の世界には嘘がない」

――そうしたトレーニングと並行して、原作も読み進められたとのことですが、特に印象に残った場面はありますか?

庄司:ドラマでは山下智久さんが演じる、明誠学院大学の甲斐真人監督が、なぜ学生連合の監督を引き受けたかという経緯を話すシーンです。「陸上競技の世界には、嘘がない。タイムの短縮を追求し、ひたすら努力を重ねる情熱、執念、勇気――。ここにこそ疑う余地のない真実があるはずだ」「我々がすべきことは、自分を信じて、ひたむきに走ることだけだ。その戦いには裏切りはない」という台詞が心に残りました。

 大人になっていくと、仕事でもなんでも「ハッピーミディアム」というか、妥協点を探しながら交渉や契約をしていく場面が増えてくる。それはサラリーマンでもフリーランスでも同じだと思いますが、 僕自身もバスケットボールを一生懸命やってきて、その後、俳優の仕事をはじめてからは、「いや、それだけじゃないよ」と言われるようになった経験があります。

 あのとき「なんでだよ」と思っていた感覚をこの台詞を読んで久しぶりに思い出せたんです。 箱根駅伝の美しさも、学生スポーツの面白さも、そこにあるんだと改めて感じました。

――走りの練習をしながら、原作を読みながら、さらに過去の箱根駅伝の映像も参考にされたとか?

庄司:動画サイトで過去の箱根駅伝を見ながら、「これはちゃんと作らないとな」という重圧を、さらに感じていました。たとえば肩のラインとか、腕を振ることのない競技なのに肩周りの筋肉がきちんと絞れていてシルエットがきれいなこと、走るときのふくらはぎやひらめ筋の硬直する感じも、映像を見ているとダイレクトに分かるんです。

  原作を読んでいても、池井戸先生がかなりの取材と時間をかけてこの作品に向き合ってきたこともすぐ分かります。そのリアリティーを映像として表現するためには、実際に走っている選手がどれだけの熱量をかけているかも理解していないといけない。そのふたつを同時並行で自分の中に入れていくような感覚で準備してきました。

「2冊もあるぜ」という喜びで読んでほしい

――小説『俺たちの箱根駅伝』をまだ読んだことがない方に、「ここが面白い」と勧めるとしたらどこを“推し”ますか。

庄司: 上巻も下巻もテレビ局側と学生連合チーム側の話が、並行に交錯しながら進んでいく構成が『俺たちの箱根駅伝』の最大の特徴だと思っています。上巻では学生連合チームに対して「インタビューする価値もない」と距離を置いていたテレビ側が、本選になると代償を払うことになっていく。その“撒き”と“回収”の見事な構造が、2冊分という文量があることで丁寧にできています。

 ふつう1冊の小説だと、200ページくらいまでに伏線を張り終えて、300ページから回収して、最後にぐっとまとめて終わる、というリズムになりますよね。でもこれだけの枚数があると、たっぷり伏線を撒いておいたうえで、たっぷり時間をかけて回収できる。上巻で読んだことが、下巻でより花開いていく感じがあります。

 上下巻を「2冊もあるのか」とハードルに感じるのではなく、「2冊もあるぜ」という喜びで読んでもらいたい――上巻を焦らずじっくりと楽しんでいただければ、下巻でその分だけより大きな読書の喜びが得られるはずです!