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漢詩による人生処方詩集

漢詩による人生処方詩集

文:岡崎 満義 (元「文藝春秋」編集長)

『漢詩と人生』 (石川忠久 著)


ジャンル : #ノンジャンル

   『漢詩と人生』の「孤高の男の鬱屈」「夜中に目覚めて」「二十過ぎれば只の人」「荒れはてた庭の春」……など三十六の目次だてを見ると、これは石川忠久先生の「人生処方詩集」と呼んでいいかもしれない。

 石川先生は日本の(いや、世界的に見ても)漢詩界の第一人者である。漢詩のWalking Dictionary(生き字引き)である。何度も先生に接しているうちに、私はひそかにWalking Utopia(動く桃源郷)と名付けたい、と思うようになった。柔らかい笑顔、紹介される漢詩は読み下しのあと、必ず中国語で読まれる。よく響く中国語読みは、押韻もはっきり、音楽を聴いているように気持がいい。先生は一年に四十回前後、全国のどこかで漢詩についての講演をされているから、ぜひ聞いてみることをおすすめする。老壮青年はもとより、幼年でも楽しめる。数年前、世田谷区の中丸小学校で全校児童の前で行われた先生の講演を聞いたことがあるが、それは本当にみごとなものだった。孟浩然の有名な「春暁」の「春眠暁を覚えず/処々啼鳥を聞く……」の五言絶句で、「冬眠するのは動物、春眠は人間だけ……」などと笑いを誘い、最後に日本語と中国語で先生のあとについて読む児童たちの表情には、春風に吹かれるような楽しさがあった。

 石川先生は漢詩の鑑賞だけではない。漢詩作りもNO.1だろう。私が属する神奈川県漢詩連盟の懇親会などで、先生は紙ナプキンに、筆ペンで七言絶句をサラサラ。(この日は花についての詩の講演のあと)

節入夏初新緑加 節は夏初に入り新緑加わる
相州詩会勢逾誇 相州の詩会勢い逾(いよい)よ誇る
庭前紅白真成色 庭前の紅白真成の色
紙上添來十二花 紙上添え来る十二の花

 これに同席の窪寺啓先生(全漢詩連常務理事)が、すぐさま次韻。

今朝迎夏暑纔加 今朝夏を迎え暑纔(わず)かに加わる
金港騒人盟更誇 金港の騒人盟更に誇る
丘上薔薇妍麗盛 丘上の薔薇妍麗盛んに
話中十二和斯花 話中十二斯の花に和す

 こういう風雅な贈答歌の往き交うさまを間近に見ていると、初心者の私はただただうっとりするばかりである。私もいつの日か、この奥深い世界に一歩でも近づきたい、と思うのである。

漢詩と人生
石川 忠久・著

定価:840円(税込) 発売日:2010年12月16日

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