どちらもややこしい男子ではあるが、それを実に魅力的に描くのが壁井さんである。恵は無神経なところはあるが根は善良で、いざという時は人のために必死になる男の子。三浦は本人が抱えている問題に大いに同情すべき余地がある。事情を知らなかった頃の倉田からすると、彼が心に溜め込んでいるものは〈自分ではどうしようもできない巨大な圧力に対する行き場のない憤りと似ている〉と見え、彼女でなくとも放っておけない何かを感じさせる。しかも、恵も三浦も大切な人のためにはがむしゃらになるところがなんとも健気で、女子心をくすぐられずにはいられない。
■異質のキャラクター
『キーリ』シリーズ(電撃文庫)に登場する〈不死人〉や殺された人間が憑依した喋るラジオ、『カスタム・チャイルド』(電撃文庫、メディアワークス文庫)の遺伝子操作された人間、『鳥籠荘の今日も眠たい住人たち』シリーズ(電撃文庫)の着ぐるみを着た父親、『14歳限定症候群』で身体に異変をきたした少女たちなど、壁井作品には身体的に異質な部分、あるいは異形の者たちが多く登場する。今回の小説においては、倉田たちが中学三年生の時に夏まで担任だった青年教師、佐野青春がとりわけ特異な存在だ。青臭い青春論で生徒たちから顰蹙を買う人物であったが、次第にその言動は狂気をはらみ、やがて教師としてはありえない行動に出てしまう。そして、その直後に変死体となって発見されるのだ。蝉に異様に執着している様子など彼の正体を想像させるヒントはあちこちにちりばめられていて、真相が明らかになる前から不穏な想像を掻きたてる。また、異形というわけではないが、三浦の視力の悩みは本書にとって重要なポイントとなっている。彼が暗がりのなかで人と触れ合う場面はなんともなまめかしく、読み手に対して視覚でなく触覚に訴えてくるものがある。つまり佐野周辺のグロテスクな描写や三浦に関する描写により、本書は五感に訴えてくる作品となっている。
■地方都市
これまでの壁井作品で具体的な実在の地名が出てきたのは代々木公園を舞台にした『代々木Love&Hateパーク』(双葉社)だけだが、本書も読めば東尋坊や三国という地名が出てくるので福井県が舞台だとわかる。地方の小さな町を舞台にすることで、そこが何か不気味な秘密を隠し持った地域であると感じさせる効果も。主人公たちが話す方言も効果的だ。『エンドロールまであと、』(小学館)や『2.43 清陰高校男子バレー部』は福井県、『イチゴミルク ビターデイズ』は新宿から特急で2時間の地方都市が舞台。そうした地方都市の風景を物語に入れ込むことは、そこに住む少年少女たちの閉塞感をより際立たせる効果も。他には『NO CALL NO LIFE』(角川文庫)でも東京湾近辺の光景が描かれ作品の雰囲気づくりに貢献している。
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