過疎化が進む地方の小さな町、日暮市(ひぐらし)。廃校した市立ひぐら西中学校の最後の卒業生だった倉田(くらた)ミズ、恵悠(めぐみゆう)、三浦誉(みうらほまれ)の幼馴染み三人は、現在高校一年生。彼らは一年前の夏に起きた担任教師の怪死事件に関し、ある秘密を共有していた。その出来事が今、意外な形で彼らを追い詰めていく……。ほのかな三角関係、将来への不安といった思春期の煩悶と、読み手にとってもトラウマを残しそうなホラー的展開を辿るこの青春小説は、『別册文藝春秋』二〇一〇年七月号から二〇一一年五月号に連載され、単行本は二〇一一年十月に刊行された。本書はその文庫化作品である。
十代の息苦しさをファンタスティックなモチーフと絡ませながら描き出すのは著者、壁井ユカコさんの得意とするところ。その特徴を、本作はもちろん、これまでの作品を挙げつつ並べてみる。
■現実と非現実の融合
壁井作品には日常のなかに非現実的な要素を紛れ込ませた作品が多い。しかし非現実に振り切った中華ファンタジー『五龍世界』(ポプラ社)から、不思議要素一切なしの青春部活小説『2.43 清陰高校男子バレー部』(集英社)まで、現実・非現実の配分を毎回微妙に変えているところが巧み。本作『サマーサイダー』では、この一冊の中で配分を微妙に変えていく。前半は少年少女たちの青春只中の不器用さと息苦しさに重点がおかれるが、次第に日常を超越した現象が少しずつ主人公たちを取り巻き、終盤にはもう……! と、非現実、しかもホラー的な要素がどんどん濃くなっていくのである。
■少年少女
ほとんどの作品の主人公が少年少女であるが、彼らは決して現状に満足しているわけではなく、閉塞感を抱いて生きる姿が鮮明に描かれる。例えば『イチゴミルク ビターデイズ』(角川文庫)は主人公・千種たちの24歳と17歳の時期が交互に描かれるが、17歳の頃の千種は彼氏との関係との鬱憤や東京への憧れを内に秘めて悶々としている。
『14歳限定症候群』(同)では14歳の少女たちが身体の異変に見舞われる連作集で、彼女たちの恋や性や周囲との関係に対する思いがビビッドに、そしてブラックに描かれる。『サマーサイダー』においてはメインの視点人物である倉田ミズは屈託がなく、周囲から〈放っとけん男にハマるタイプ〉と忠告されるような女の子だが、男子や教師のことを冷めた目で見ている節もある。鋭さと鈍さを合わせ持っている思春期の少女像が体現されている存在なのだ。一方、男子二人はかなり屈折している。恵悠は幼い頃はガキ大将、中学時代はバレーボール部のエースでちやほやされていたが、〈強靭な精神力や地道な努力といった要素が自分に決定的に欠けている〉こともあり、スポーツ推薦で進学した高校では挫折を味わっている。三浦は幼い頃から内向的な性格だったが、中学生になると成績はよいものの〈外に向かって攻撃性すらともなった拒絶感を放出〉するようになり、周囲から腫れ物にさわるような扱いを受けている。実は彼は視力に関して重大な悩みを抱えており、それを倉田にはひた隠しにしていることがわかってくる。
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