インタビューほか

武士道女子高生の最後の夏

「本の話」編集部

『武士道エイティーン』 (誉田哲也 著)

『武士道エイティーン』 (誉田哲也 著)

──挟み込まれている順番どおりに、書き進められたんでしょうか。

誉田  はい。文春さんのウェブでこの四人の短編を連載し、その順番どおりに挟みこんでいます。緑子の短編はどこに挟んでもよかったのですが、玄明の話は先にもってきたほうがいいだろうと思いました。

──先にというのは、江戸から明治に剣道のプロ興行ともいえる撃剣興行が流行(はや)ったなど、今、剣道を実際にされている方でもあまり知らないのではないかと思われる、面白い剣道の歴史が玄明の章に描かれているからでしょうか。

誉田  前作までで、剣道の決まりごとというのは書いてきましたし、今回、またそういうことを書く場面自体もなかったんですね。早苗と香織の場面は、夏までは稽古、試合、稽古、試合の繰り返しなので、剣道の枠組みが最初に挟んであるほうが、インターハイへの助走になるのではないかと思いました。また、玄明の章で最初に考えていたのは、桐谷道場をめぐるお家騒動だったんですが、常識とはまったく違うであろう玄明なりの剣道観というのも書いておきたかったんです。

──『シックスティーン』で、礼をし、いったん構えた後は決まった回数も終わりの時間もなくなり、ただひたすら相手を斬る、蹴りを食らっても転ばされても「待て」がかからない、それが桐谷流の勝負稽古、とありますね。

誉田  彼の剣道観がどこで普通と乖離(かいり)したのかという分岐点を探ろうと思って、剣道の歴史や古流剣術のかたちを調べ始めたんです。そうしたら、剣道の歴史自体にとても興味深い流れがあったので、これを桐谷玄明の人生と家の歴史に絡めたらいいのではないかと資料を読むうちに思いました。

──真ん中にインターハイを挟んだあと、吉野の章となりますが、これは『セブンティーン』で描かれた剣道と暴力のテーマに繋がります。前作で、香織は、一撃で相手の戦闘能力のみを奪うという武士道の境地に立つことができましたが、吉野は暴力の側に立ってしまいます。香織自身も吉野の噂を聞いた時に、「他人とは思えない武勇伝の持ち主である」と思うなど、似た二人が逆の立場に立ち、対比として非常に面白いなと思いました。

誉田  『シックスティーン』や『セブンティーン』の作風からして、香織が助ける清水(しみず)君に絡んでいた不良というのは、ガチガチの武闘派でなくてもいいわけで、結果、香織が勝つことになりました。でも、恐怖から暴力に走ってしまうパターンは、現実では非常に多いと思うんですよ。誠実に生きていても、恐怖に負けてどこまでやっていいのかわからなくなる。香織は幸運にも、そのどこまでやるかという線引きをしてから助ける現場に臨めましたが、吉野先生はその線引きがないまま飛び込んでいってしまい、そうなると暴力を振るう結果にならざるを得ない。一定の割合でそんなふうに暴力って生まれてくるんじゃないのかなと思います。

武士道エイティーン誉田哲也

定価:本体690円+税発売日:2012年02月10日