インタビューほか

武士道女子高生の最後の夏

「本の話」編集部

『武士道エイティーン』 (誉田哲也 著)

『武士道エイティーン』 (誉田哲也 著)

──山場となる、インターハイの試合の組み立て方も見事ですね。早苗と香織が最後かと思いきや、そのあとで香織とレナが死闘を繰り広げるという……。

誉田  主役に相応(ふさわ)しい舞台とクライマックスをと悩みました。早苗との勝敗に関してはずいぶん前、香織が二度市民大会で負けたあたりから決まっていました。ただ勝ち負けよりも、どんな勝負であるのか、どんな試合になるのかというほうが重要でした。個人、団体とも決勝であたるということはトーナメントの山であったら右と左に分かれていなければならない。一緒になるパターンもあるんじゃないかと思ったので、だったら決勝戦であたることに拘(こだわ)らなくてもいいのではないかとだんだん思い始めました。むしろ強豪校の主力選手という対外的な意味合いで、高いところで戦う意義があるのは香織とレナのほうではないかと。早苗と香織に関しては、彼女たちの戦いはどこで実現しても、それこそインターハイでなくとも市民大会で実現してもいいので、だったら無理に決勝戦まで引っ張る必要もないだろうなと途中から思ったんです。

──この三冊を通して、香織の、自分の剣道から指導的立場にという精神的な成長ぶりが目覚しいですね。

誉田  香織が、自分より下のものに剣道を伝えたいというのは当初の設定通りなんです。『シックスティーン』の頃から、子供たちがやっているのをみるのが好き、時間があったら稽古をつけてあげたい、そういうことに元来喜びを得る子だったんですが、本人はそのことに気づいていないし、さほど大切にも思っていません。しかし、あの一番尖(とが)っていたときの香織が唯一向ける優しさというのを置いておきたかったんです。先輩には牙をむきますし、同輩は薙(な)ぎ倒していこうとしますが、後輩は基本的に育てるものだと思っています。剣道が好きなので、自分より後に始めた人にはやめないで欲しいと思い、それに対しては協力するという姿勢なんです。学年があがるにつれて、その姿勢がわかりやすく外に表れてきたんだと思います。ただ過去においても、その指導が決して甘いものであったとは思えませんが。

──そう考えると、一方の早苗は基本的に剣道が好きだという考えから変わっていないですね。

誉田  早苗は今は剣道が好きですが、基本的には、何かを好きでいるという気持ちが変わらない子なんです。剣道をやめるときも剣道を嫌いになるからではなく、剣道が好きだという気持ちのまま、次のものに移っていけるんです。何かから別のものに移るとき、過去の経験を次に活かせる子。ジャンルには拘らない、逆に言えば発展させていける子なんです。読者の方にも一つのジャンルを続けていけなくなることイコール挫折で、イコール暗いことだと思ってほしくないんですね。一つのことがダメになるというのはよくあることで、自分が何を好きだったのか、どうして好きだったのかを見つめ直すと、じゃあこういうことでも満足感を得られるんじゃないか、と発想って変わっていくと思います。それを早苗を通して書いておきたかったんです。これは、片腕でも剣道を続けてやろうとする香織には絶対無理なことなので。

武士道エイティーン誉田哲也

定価:本体690円+税発売日:2012年02月10日