棟居刑事登場
この作品集には復讐の話が3度登場します。妻子を殺され犯人に復讐を企てる孫を気遣う老人。また通り魔に父親を殺された男と、結婚2年目で妻を惨(むご)たらしく殺された男と。
何故でしょうか? 復讐は禁じられているが、法は常に犯人や加害者に優しく、被害者や、その家族を救済しない。つまり、被害者にとっては、法は悪魔の味方をしているのである。法が被害者を救済してくれなければ、自ら救わなければならない、という考えがこの時代広がり始めているようですが、果たして本当にそうなのか? 他に考え方はないのか? と。
現実にあった事件や災害を巧みに織り込みつつ、著者は読者に問いかけます。それぞれ読者が読みながら考えさせられます。
読者にとって、嬉しいことは著者の作品に度々登場する人気キャラクター、棟居弘一良(むねすえこういちろう)刑事が複数回登場してくれることでしょう。今回は主人公として大活躍、というよりも本筋においてのスパイス的存在なのですが、そこは物語巧者の著者。読者をがっかりさせません。
例えば、こんなシーン。
――一見、華やかな夜景の奥の闇を探ることを職務としている棟居も、光の住人ではなく、闇の狩人といえるかもしれない。そして、夜景を彩る光彩が華やかになればなるほど、闇の狩人は忙しくなるのである――(「夜景」より)
如何です? 重い過去を背負った男・棟居弘一良の存在感、ファンならたまりませんよね。ほかにもこんなセリフが。
「それまで、あとは警察にまかせろ。城中秀樹、山瀬和一郎氏殺害、小谷明殺害未遂で緊急逮捕する」(「一粒の涙」より)
著者の読者に対するサービスは衰えることはありません。
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