――『名画の謎』シリーズ第3弾、今回は歴史篇ですね。前の神話篇と聖書篇は『オール讀物』での連載、こちらは『文藝春秋』カラーページ(現在も連載継続中)をまとめたものですが、何か違いはありますか?
中野 カラーページは字数が少ないため、書籍化にあたっては大幅に書き足しました。基本的には一枚の絵からどんなことが読み取れるか、というこれまでのわたしの本のスタイルを踏襲しています。画面に隠された意味や、成立の背景などを知ると、絵がさらに面白くなりますよ、というものです。
――国も時代も、そして画家もさまざまなチョイスですね。古代ローマから第2次世界大戦のドイツまで。他にフランス、イギリス、ロシア、スペイン、オランダ、イタリア……。
中野 はい、できるだけ読んで飽きないよう、ヴァラエティに富む選択を心がけました。同時代人が描いている作品もあれば、はるか昔の、しかも他国の歴史の一断片を絵画化した作品も多いです。表紙にも使った「ロンドン塔の王子たち」は、フランス人が描いた英国史のワン・シーン。この絵は見ただけで何か不穏なことが起こっている気配を感じます。画家の神経は実に細かく、歴史書やシェークスピアを読み込んだ上で描いているので、吠える犬さえ、単なるペットとして登場しているわけではありません。見る者の知識をも問われるのです。また一見のどかで何の意味もなさそうな絵が、秘めた血腥(ちなまぐさ)い歴史、郵便制度や産業革命、人間の性格に対する価値観の変遷といった、文化史的に意味ある作品も取り上げました。
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