- 2010.05.20
- 書評
旅先のご飯は絶対にはずしたくない
文:さとなお (クリエーティブ・ディレクター/作家)
『朝昼晩ごはん全部うまい店! 極楽おいしい二泊三日』 (さとなお 著)
ジャンル :
#趣味・実用
捕りたてのでかいでかいズワイガニである。スケソウダラ漁なのだが、いいカニがたまにかかるらしいのだ。
「でっかいズワイだべー? こんなの見たことないべー?」
その漁師、ニコニコとカニを見せびらかしながら船を下りてきて、港に放置してあるドラム缶で海水を沸かし、そこにカニをぶちこんで茹(ゆ)であげてくれたのである。
耳がちぎれるような風の中、捕りたて茹でたてのでかいズワイガニを凍りそうな指先でちぎってはフーフー食べたその味たるや!
目の前に「どーだ、うまいべ?」とニコニコする漁師のゴツイ顔がある。むぅぅと声にならぬうめき声を出しながら首をブンブンと縦に振る。あぁこういう瞬間に死んだらそれを「幸せな人生」と呼ぶのだろうなぁ……。そのくらいはうまかった。もうあれ以来ズワイガニは食べないことにしているくらい、そのくらい鮮烈な味だった。
この羅臼への旅行は「知床方面って行ったことないから」くらいな理由でなにげなく出かけたものである。季節は最悪だったし、特に盛り上がった旅でもなかった。でも人生最大級に思い出に残る旅になったのは、すべてこのズワイガニのおかげなのである。
ことほど左様に、食は旅を思い出深くしてくれる。ボクの場合、その思いが高じてちょっと極端なことまでするようになった。旅の食事をおいしくするどころか「食べるために旅をするくらいじゃないと許せない」というカラダになってしまったのである。
たとえば、さぬきうどん。
あれはまださぬきうどんブーム前の1997年のこと。本場香川県で初めて「本物のさぬきうどん」を食べたときの驚きが忘れられず、二泊三日で14軒、さぬきうどん屋のみを食べ歩いた(その模様は『うまひゃひゃ さぬきうどん』〈光文社・知恵の森文庫〉というボクのデビュー作にもなっている)。
何度も何度も「さぬきうどんを食べるためだけに」香川に旅行へ行った。最高記録は1日11軒。ほとんどバカである。でもこういう「食べるためだけの旅」がいつしか快感に変わっていった。
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