――それにしても、2人の女性の息遣いまで伝わってくるようなリアリティーです。
よしもと 私はいつも小説を書き始める時、登場人物の容姿をはっきり思い浮かべているんです。知っている人がモデルというわけではないんですが、本当に生きている人、という感じなんです。大まかなプロットさえあれば、後はその人たちが勝手に動いてくれる――ちょうど映画を撮影しているような感覚なんです。
――作者が小説を支配している、というわけではなく……
よしもと ええ。映画でいえば監督である私が、時間の流れの中でどこを切り取るかだけがオリジナリティーで、別の人が別の角度から撮れば違った作品になる――と思っています。だいたい、小説が終わっても、登場人物たちはその後も生き続けていく、そう信じていますから。
――では旅から帰った後、2人の人生はどう変わっていくのでしょうか?
よしもと いえ、あんまり変わらないんじゃないでしょうか(笑)。ただ少しだけいい加減になって、楽に生きられるようになるかもしれません。
日常が続いて行く、そのこと自体が一番大事なことなんだ、と。それが小説を読んでくれた方に伝われば、とてもうれしいです。私自身仕事と子育ての両立も大変ですし、両親を亡くして精神的にしんどい思いもしましたけれど、やっぱり作家としてもひとりの人間としても、人生に対して肯定的でいたいですね。
――「スナックちどり」というタイトルは、ちどりの祖父母がスナックを経営していたことにちなんでいます。イギリスを舞台にした小説としては意外な感じもしますが、読み終わると、“これしかない”と納得します。
よしもと もともとバーみたいな小洒落た場所よりも、商店街の中にあるようなスナックの方が好きなんですよ。バーって、お客の方もバーテンダーも、店に入ってきた時から帰るまでテンションが一貫して変わらないでしょう。あれがつまらない。スナックだと、最初のうちはきちんとしていても、途中からだんだんどうでも良くなってくる(笑)。ママもいつの間にか商売を忘れて客の隣に座っていて、愚痴を聞くどころか、逆に説教していたりする。ああいうぐだぐだな感じがサイコーに好きですね。
――なるほど(笑)。「日本人の心のふるさと」という言葉まで出てきますからね。
よしもと 小説もそんな感じで、リラックスして読んでもらえれば、と思います。
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