- 2016.05.30
- 書評
キャラクターをめぐる椅子取りゲーム
文:倉本 さおり (書評家)
『フルーツパーラーにはない果物』 (瀬那和章 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
「フルーツバスケット」という遊びがある。
用意するのは人数分より少ない数の椅子。参加する子供には、あらかじめさまざまな果物の名前が割り振られていて、その中から鬼がランダムに選んで読みあげる。自分の名前を呼ばれた子供たちは、すぐさま立ちあがって席を移動しなければならない。
要するに椅子取りゲームだ。ストレートに「イチゴ!」と名指しされることもあるし、「赤い」とか「そのまま食べられる」といった特徴だけで示唆されることもある。いずれにせよ、子供たちはそれぞれに与えられたキャラクターを背負い、あくせく走り回りながら自分の座る場所を懸命に確保する――この連作短篇集は、そんな終わりのないゲームにちょっぴり疲れてしまった女の子たちの物語だ。
中心となるのは同期入社の四人。共に二十代半ば、もはや学生の頃のノリでは突っ走れない。寿退社という言葉もちらほら聞こえ始めるお年頃だ。そうした微妙な岐路に立たされた彼女たちが、けっして甘いだけじゃない恋と友情を通じ、自分の生き方を見つめ直していく。
一人目の女の子・真衣は、恋愛体質を自認している。気さくで親しみやすく、流行にはほどよく敏感、ファッションは甘めテイスト。合コンでは当然のごとく一番人気で、彼氏と別れてもすぐに新しい出会いがある。
続くモリッチは、どのグループにも欠かせない仕切り役&盛り上げ役。合コンに参加しても最初から男ウケなどどこ吹く風、ぽっちゃり体型を自らイジって笑いに変換させ、誰とでもすぐ友達になれてしまう。
そして、超がつくほどお嬢様育ちの玲奈。並みの男が気後れするほどの美貌と気品を持ち合わせる。恋愛経験はいまだゼロだけれど、本人はとりたてて焦る様子もなく、いつもゆったりと微笑んでいる。
彼女たちを輪の外から遠慮がちに見守っているのが、やや天然気味の理系女子・桧野川だ。化粧もろくすっぽせず地味な作業服に身を包み、一日じゅうラボ棟で黙々と働いているせいか、どうも人と話が噛み合わないことが多い。