- 2016.05.30
- 書評
キャラクターをめぐる椅子取りゲーム
文:倉本 さおり (書評家)
『フルーツパーラーにはない果物』 (瀬那和章 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
そんな四人がフルーツバイキングに出掛けた際、桧野川の携帯電話に入っていた「フルーツ占い」のアプリに興じる。いくつかの簡単な質問にイエスかノーで答えると、その人にぴったりのイメージの果物が表示されるという。ひと昔前に流行った「動物占い」に代表される、よくあるタイプのキャラクター診断ゲームの一種だ。さて、そこから弾き出された答えは、「イチゴ」、「レモン」、「桃」、「パイナップル」――どの果物がどの女の子を指しているのか、結果を知らずともすぐにピンと来ることだろう。
実際、彼女たちも、至極あっさりとその答えを受け入れる。わかりやすく可愛らしくて、誰からも好かれる「イチゴ」は真衣。メインにはなれないけれど、あらゆるメニューの引き立て役となる「レモン」はモリッチ。ひとつひとつ大切に育てられ、高貴な香りを纏わせている「桃」は玲奈。トゲトゲで、いかにも風変わりな姿を持つ「パイナップル」は桧野川。そのイメージは自身も周囲も驚かせない。だからこそ、彼女たちは後でこっそり消沈し、それぞれに思い悩むことになる。
〈私がイチゴのような雰囲気なのは生まれつきじゃない。みんなと競い合って、選ばれるための努力を続けていたら、こうなっただけだ〉
たとえば、真衣はたしかに合コンでモテることを自覚しているけれど、本人曰く〈モテるための服をきて、モテるような仕草をして、相手の話題に興味がある振りをする〉から(!)。つまりはモテる努力を常に欠かさないからだ。〈男たちはみんな、イチゴが好き。だから私は、イチゴっぽくなった〉。なのに実際に付き合うとなると、たいていは長続きせずにフラれてしまう。〈万人受けするけど、手に取りやすくて、いくらでも代えがきく〉――哀しいかな、生存戦略のために身につけた「イチゴ」というキャラクターが、結果的に裏目に出てしまっているのだ。
それは他の三人についてもまったく同様にいえる。中学の同級生に十四年かけて片想いしているモリッチは、いつでも気の合う仲間でいられる代わりに、甘い恋人には永遠になれない「レモン」のポジションから抜け出せずにいる。美しく気高い「桃」として、ただただ守られて育ってきた玲奈は、傷のつけられ方すらわからないまま静かに絶望している。そして、他人と上手くコミュニケーションがとれない桧野川は、自らを硬い皮に包まれた「パイナップル」に喩(たと)えることで現状を無理に納得しようとしている。
-
『赤毛のアン論』松本侑子・著
ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。
応募期間 2024/11/20~2024/11/28 賞品 『赤毛のアン論』松本侑子・著 5名様 ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。