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場所や時代を越えて想いをつなげていく

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「本の話」編集部

『空色バトン』 (笹生陽子 著)

出典 : #本の話
ジャンル : #小説

――5話目に出てくる、セイヤくんの亡くなったお母さんですね。大人と子どもの境目がわからないまま大人になってしまったと悩む、乙女ちっくな内面をもつ30歳の主人公。

笹生  自分が大人だと自信をもって言い切れる人って少ないだろうなと思います。ですが、共通点はそれだけで、ショーコちゃんは自分の中に1ミリもないキャラクターでした。2話目の芸術家肌で我がままタイプのアキちゃんも、3話目の優等生タイプの吉野も私の中にいるし、人を笑わせるのが得意な森川ももちろんいます。地味でおとなしくって、少女マンガが好きでちょっとずれてるというのを、アキちゃんの一人語りの女王様口調と対比させて、戯画化して書くことで書きづらさを克服しました。

――3話目で、15歳の吉野が同好会メンバーで同人誌を作ろうと発案し、先生からひきこもりの平岡くんもメンバーに入れてほしいと頼まれたため、彼の家で制作することになります。この平岡くんがいい味を出していますね。床に転がっているたくさんの本やビデオテープ。『地獄の季節』に『わが闘争』、三島由紀夫に寺山修司。キューブリックにフェリーニにゴダール、コッポラ、ブラッドベリ……。無表情で膝を抱えているかと思えば、「人生には何の価値もないこと」「人は罪を背負って生まれてくること」などと大声で叫んだり。

笹生  プロットのときにはいなかったのですが、彼が出てきたことで物語がかき回され、書いていて楽しかった人です。最初3話目はマン研とアニ研の戦いにしようと思っていたんです。高校時代のマン研にアニメ好きが半分くらい入っちゃって。入っちゃってという言い方をしてるくらい、私は気に入らなかった訳です。すぐに宇宙戦艦ヤマトは、などと言いだす系の人たちに、私たちはもっとおしゃれ系よ、なんて言って喧嘩になっていたんですね。結局オタクのほうに負けるんですが、それを扱いたくて。実際書き始めたら、人数が4対4で多くなりすぎて物語が動かない。じゃあ男子一人にして、当時のアニメの悪口になってもなんなので、SFよりというか、80年代にもいた中2病の人物にしようと。今の40代の男性が自分のことだと恥ずかしくなるような男の子を描きたかったんです。

――一風かわった子も描く一方で、4話目の主人公、上京した大学生の芹沢くんはいたって普通の青年です。そんな彼に絡んでくるのが女子4人のメンバーの中で絵に描いたようなお調子者の森川ですね。

笹生   おとなしめというか普通のキャラクターである芹沢くんを入れることで、セイヤくんはちょっとオバカキャラで、平岡くんはかわってる、登場する3人の男の子全員のバリエーションが出るかなと思いました。平岡くんや森川みたいなちょっとかわった子を話者に持ってくると、語られるのもかわった世界になってしまうので書きづらいんですね。普通の人からかわった人を見るほうが読者にもわかりやすいと思いました。

空色バトン
笹生 陽子・著

定価:1260円(税込) 発売日:2011年06月11日

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