著者の溝上憲文氏は、日本企業の人事部取材を長く続けてきた。大企業から中小企業まで様々な業種の人事担当者に太いパイプを持ち、経済誌だけではなく人事の専門誌でも活躍するジャーナリストである。本書はその彼がこれまでの取材成果を駆使しながら、日本の雇用・解雇の現状を現場の声によってレポートした1冊だ。
大手企業の解雇マニュアルの実態、リストラ計画の発案から発表までの根回し、対象となる社員の選別方法など、実際にそれを業務として行う人事担当者の発言はどれも生々しく、読みながら息苦しさを感じることさえあった。
例えば、ある企業で希望退職者の募集が行われる。「希望退職」と言いながらも、すでに候補者は絞られており、企業側は「解雇」や「クビ」といった言葉を巧妙に避けながら対象者を応募へと導いていく。
担当者にはそのための「面接の心得」が配付されていて、そこには訴訟や後のトラブルを防止するための文言が並べられている。〈将来性や社内の他部門への配置転換の可能性などを含め、慎重に検討しましたが、社内ではあなたの経験と能力を十分に活用できるあなたに適した職務がなくなっているのが現状です〉といった具合に。
1度、2度と面談を繰り返すうち、ほとんどの社員は退職に同意するという。そしてこうした事例を報告した後、著者は次のような人事担当者の本音を紹介するのだ。
「あなたは戦力外です、と言われると、プライドの高い社員ほど残りたいとは言いません。本人にしてみれば、辞めろといわれてまで会社にすがろうとするのは自身のプライドが許さないわけです。なんとか会社に残りたいのですが、という社員でも、会社に居場所がないことを丁寧に説明すれば、諦める社員がほとんどでした」
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