もはや社員はコストでしかない
そのような実例をいくつも挙げて本書が描き出すのは、この約20年間の日本で解雇がいかにマニュアル化・常態化されていったかというその歴史でもある。
経済のグローバル化や過熱する市場競争を生き残る上で、多くの企業には余分な人員を抱える余裕がなくなった。人事担当者は労使双方の妥協点を探し、様々な試行錯誤を繰り広げてきたが、近年では子会社や関連会社も再雇用の受け皿として機能しない。かつては社長が涙ながらに頭を下げることもあったというリストラの現場は自ずと様変わりせざるを得なかった。採用が厳選化されると同時に解雇のハードルは倫理的にも低くなり、社員を「コスト」として捉える価値観が強まった。
そんななか、自らの「専門性」が将来にわたって会社に必要とされると信じられる人が、いったいどれだけいるだろうか。採用されたばかりの社員から定年間近の社員まで、もはやリストラの対象にならない層はほとんど存在しない――そんな「常時リストラ社会」の姿を、著者は人事担当者が語るリアルな人材論を交えて描いていくのである。
それにしても本書を読み進めると、終身雇用・年功序列の「日本型雇用」の崩壊に厳しい解雇規制が絡み合った日本では、その解雇手法も独特な発達を遂げてきたことがよく分かる。「追い出し部屋」や「座敷牢」「さらし首」などと呼ばれるような悪質なやり方は言うに及ばず、入念な事前準備によって「辞めさせたい社員」を退職に導くリストラの手法はさらに巧妙になりつつあるようだ。
解雇規制の緩和の流れのなか、そうした社員の選別化が着実に進んでいくのであれば、企業組織で働く個人はどのように振る舞えばいいのか。著者が聞き取る多くの人事担当者の生の声は、それを考える上でのヒントになるに違いない。
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