2012.06.05 書評

死刑を恐れない殺人犯との対決

文: 薬丸 岳 (作家)

『死命』 (薬丸 岳 著)

「数年前、『死刑になりたいから人を殺した』と嘯く殺人犯が何人か登場してニュースを騒がせていたときに、編集者と『彼らに死刑以上の報いを与えることはできないのか』という話題になりました。その後、余命僅かな犯人を、余命僅かな刑事が追うというアイデアがふと降りてきて、両者が結びついた。結果、犯人を捕まえる過程よりも、捕まえた後に刑事罰以外の要素でどうやってダメージを与えるかに重点を置いた新しいミステリーを作ることが出来たと思います」

 デイトレードにより、三十代にして財を築いた榊信一は以前から人を殺したいという欲望を隠し持っていたが、自身がスキルス胃がんに冒されたことを知り、連続殺人犯に変貌する――。
 物語は、榊のほか、末期がんが発見されたものの榊を追うことに残りの人生を懸ける刑事の蒼井、蒼井とコンビを組む若手刑事・矢部、榊の恋人の山口澄乃の四人の視点から語られる。

「今までの自分の作品では『真犯人はこいつだった』というサプライズや、どんでん返しを重視して、正体が明かされた状態の犯人の視点では書いてこなかった。しかし、今回はあえて死を恐れない快楽殺人犯という異常者の内面を克明に描くことに挑戦しました。かといって、読者を引っ張るための謎を作ることを放棄したわけではなく、榊がなぜ殺人願望を抱くようになったかであったり、榊と蒼井の対決シーンではサプライズもきちんと用意してあります(笑)」

 本書では様々な種類の死が描かれているが、著者自身、執筆時は「死とはなにか」「なぜ人は死を恐れるのか」について煩悶する日々だったという。

「後で気付いたんですが、物語の前半は分からなくて苦しんでいる自分とリンクしてしまったのか、キャラクターが『死ぬってなんだろう』という風に問いかけるシーンがあったりする。書いているときは登場人物と一緒になって、誰にも分からないその問いに挑んでいましたね。約二年間考え続けた結果、それが正解だとは思いませんが、自分なりの答えをラストで明かしています」

 死について納得いく結論が出せ、それを小説に昇華させることに成功したことが連載時のタイトルである「死にゆく者の祈り」からの改題にもつながった。

「連載前から『死命』がベストだと思いつつも、執筆前はこの重い名にふさわしいくらい、死について考えて、描き切れる自信がなかったんです。書き上げて、これなら『死命』というタイトルで勝負できるなと思えるようになりました」

死命
薬丸 岳・著

定価:1733円(税込) 発売日:2012年04月25日

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