書評

無為のまま、永遠に生き続ける男の
壮大なる物語

文: 陣野 俊史 (文芸評論家)

『永遠者』 (辻仁成 著)

 辻仁成の新作は、大雑把に言えば、バンパイアと恋に落ち、自身も不老不死になった男の一代記である。万国博覧会に沸く1899年末のパリから2011年の東京まで、百年の時間をまたぐ。可逆的ではない。時間は流れ、幾つかのポイントで、バンパイアの恋人たちは再会する……。

 と、書くと、これまでの辻作品と同趣向かと思われるかもしれない。じじつ、辻の小説には、運命的な出会いを経験し、長い時間を経て再会を果たす男女が頻繁に登場する。設定こそバンパイアになっているが、それと同じなのか? いや、まったく違う。

 少し具体的な話を。5部から成る。第1部。父親のあとを追って外務省に入ったザマ・コウヤは、日本に婚約者(マキエ)を置いて、1899年末のパリに赴任する。27歳のコウヤはそこでカミーユという名の踊り子と出会う。2人は永遠の愛を約束し、カミーユの一族による血の婚礼の儀式が行われる。
「私たちは死なずに、永遠を生きることになるのです」。

 第2部。コウヤは日本に帰国、マキエと結婚している。ときはすでに1945年。年老いて死に瀕しているマキエは東京の聖路加病院に入院。3月10日、東京は大空襲に襲われる。

 第3部。コウヤは、聖路加の看護婦だったキネと結婚、ミワコという娘にも恵まれる。時代は大阪万博に沸く1970年。キネは齢を重ねているが、コウヤは青年のままだ。一家はアメリカに在住し、不老遺伝子の研究に寄与している。コウヤはカミーユを忘れられない。

 第4部。自伝「二十世紀博覧会」を書き始めたコウヤは、カミーユと再会。熱愛を確認するが、カミーユはリシャール・ブーラーなる資産家の老人と結婚している。彼の目を逃れ、パリで隠遁するコウヤだったが、ちょうどその頃、チェルノブイリ原発事故が起こる。

 第5部。パリ時代の外務省の同僚コノエの末娘が営む料亭で日々を送るコウヤ。すでにリシャールも世を去り、アメリカでは同時多発テロが起こる。リシャールから富と権力を継承したカミーユは、相変わらず若く美しい外貌とは裏腹に、別の人格へ変わっていく。永遠の愛を誓ったコウヤは、そんなカミーユにかすかな違和感を覚える。そして……。ときはすでに2011年。3月11日。

【次ページ】読者の想像力に任される結末

永遠者

辻 仁成・著

定価:1680円(税込) 発売日:2012年10月12日

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