2010.08.20 書評

ディマジオ+メイズ÷2

文: 加藤 良三 (日本プロ野球組織コミッショナー)

『野球へのラブレター』 (長嶋茂雄 著)

  私の友人の造語に「へんさち」というのがある。

「偏差値」に非ず、「変さ値」である。

 最近の日本の政治で「変さ値」の高い例を見たくもないのに随分見せられた。

 安保・外交・防衛・治安等の世界で無責任に垂れ流される高「変さ値」の言動には鼻白むばかりで、心が冷える。

 しかし、高い「変さ値」が元気の素になるケースがある。

 長嶋茂雄(以下敬称略)がその典型である。

 監督になって間もない頃か、誰かが長嶋に「今年の補強、トレード、どう評価してますか」と聞いたのに対し、「ハイ、結果がよければ成功、悪ければ失敗ということになるでしょう」と答えたことがあったと承知する。

 彼の語調は誠心誠意そのものであったに違いない。

 ジャイアンツの名監督であった水原茂が「長嶋はジョー・ディマジオとウィリー・メイズを足して2で割ったような選手だと思う」と述べたことは、本書に再録された長嶋との対談でも私から紹介した。

 偶然、私はディマジオともメイズとも会って話をしている。そのこと自体とても名誉に感じている。

 ディマジオは寡黙な人であった。アメリカ人ジャーナリストの中には「無愛想で付き合いにくい」ということでディマジオを嫌う者も存外多かった。

 何せ、マリリン・モンローを奥さんにしながら、彼女が何か話しかけると「私のことは放っといてくれ」(リーブ・ミー・アローン)と言った人である。

 しかし、日本人には概して親切だった。

「何故、消化試合でまで全力プレイするのかね、怪我したら大損だぞ」との仲間の問いかけに対し、「今日、ここでディマジオを見るのが最初で最後のファンも居るだろう」とポツリと答えたのは有名である。

 ここのところは長嶋茂雄も同様である。

 ウィリー・メイズも又、アメリカを象徴する大選手である。

 アメリカ大統領にとって、ウィリー・メイズにホワイト・ハウスのディナーに出席して貰うことは大きな名誉なのである。

  そのような折、ホワイト・ハウスで顔を合わせたメイズは、「俺はこういう場が苦手でね。今日も着席の食事だと知らなかった。食いはぐれたらまずいと思ったんで、出がけにハンバーガー食って来ちゃったんだ」と我々夫婦に言った。

 ディマジオもメイズも残した記録は素晴らしいが、記録以上の何かがある。

野球へのラブレター
長嶋 茂雄・著

定価:840円(税込) 発売日:2010年08月20日

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