私の友人の造語に「へんさち」というのがある。
「偏差値」に非ず、「変さ値」である。
最近の日本の政治で「変さ値」の高い例を見たくもないのに随分見せられた。
安保・外交・防衛・治安等の世界で無責任に垂れ流される高「変さ値」の言動には鼻白むばかりで、心が冷える。
しかし、高い「変さ値」が元気の素になるケースがある。
長嶋茂雄(以下敬称略)がその典型である。
監督になって間もない頃か、誰かが長嶋に「今年の補強、トレード、どう評価してますか」と聞いたのに対し、「ハイ、結果がよければ成功、悪ければ失敗ということになるでしょう」と答えたことがあったと承知する。
彼の語調は誠心誠意そのものであったに違いない。
ジャイアンツの名監督であった水原茂が「長嶋はジョー・ディマジオとウィリー・メイズを足して2で割ったような選手だと思う」と述べたことは、本書に再録された長嶋との対談でも私から紹介した。
偶然、私はディマジオともメイズとも会って話をしている。そのこと自体とても名誉に感じている。
ディマジオは寡黙な人であった。アメリカ人ジャーナリストの中には「無愛想で付き合いにくい」ということでディマジオを嫌う者も存外多かった。
何せ、マリリン・モンローを奥さんにしながら、彼女が何か話しかけると「私のことは放っといてくれ」(リーブ・ミー・アローン)と言った人である。
しかし、日本人には概して親切だった。
「何故、消化試合でまで全力プレイするのかね、怪我したら大損だぞ」との仲間の問いかけに対し、「今日、ここでディマジオを見るのが最初で最後のファンも居るだろう」とポツリと答えたのは有名である。
ここのところは長嶋茂雄も同様である。
ウィリー・メイズも又、アメリカを象徴する大選手である。
アメリカ大統領にとって、ウィリー・メイズにホワイト・ハウスのディナーに出席して貰うことは大きな名誉なのである。
そのような折、ホワイト・ハウスで顔を合わせたメイズは、「俺はこういう場が苦手でね。今日も着席の食事だと知らなかった。食いはぐれたらまずいと思ったんで、出がけにハンバーガー食って来ちゃったんだ」と我々夫婦に言った。
ディマジオもメイズも残した記録は素晴らしいが、記録以上の何かがある。