昨年『屋上のウインドノーツ』で松本清張賞、『ヒトリコ』で小学館文庫小説賞を受賞しデビューした著者は、受賞2作に加え、学生駅伝を描いたスポーツ小説『タスキメシ』を上梓し、旺盛な執筆欲を見せた。
「デビューから1年が経ちましたが、相変わらず小説を書くことが楽しくて仕方ありません。“好きなことを仕事にすると苦労する”と言われたことがあり、いざプロとして文筆活動を始めると辛いのかも……と少々心配していましたが、全くの杞憂でした(笑)」
本作『さよならクリームソーダ』はルーキーとしての1年を締めくくる長編小説。美術大学を舞台に、若さゆえの生き辛さに葛藤する青春を描く。
主人公の寺脇友親は、花房美術大学油絵学科の1年生。仕送りするという母親の申し出を断り、「旭学生寮」に入居した。手持ちの金が尽き、行き倒れになりそうなところを同寮に住む柚木若菜に救われた。高額のお金をぽんと貸してくれた若菜先輩に恩義を感じる一方で、友親は微かな違和感を持った。そこへ、先輩のストーカーと思しき女子大生・恭子が現れ、先輩の生活振りを報告してくれと懇願される。
「私自身、日本大学藝術学部文芸学科の出身ということもあり、入学後のオリエンテーションなど美大ならではのおもしろいエピソードを思い出しつつ、普遍的な美大の良さ、悪さを拾いながら書きました。また、美大に入るということは、いわゆる安泰な将来への道を外れることでもあります。王道ではない人生を送ろうとする人達が集まっているゆえに生まれる独特の空気感を再現できるよう、本作を執筆するにあたり意識しました」
夏休み明けの合評会で、若菜先輩は少女の裸婦像を発表。モデルは知り合いだと語った。恭子曰く、若菜先輩は高校時代に恋人と悲しい別れを経験しており、彼女の死後、実家と距離を置くようになったという。徐々に若菜先輩の過去が明らかになるが――。
「友親も若菜先輩も、両親が離婚、再婚していて、赤の他人と“家族”という枠組みの中で暮らさねばならない環境にいます。友親は母親の幸せを第一に考えて枠を固め、そこに馴染めない義姉との関係がぎくしゃくしてしまう。一方、若菜先輩は新しい家族を生理的に嫌がり、枠の外へと逃げて行きます。読む方によっては、友親は馬鹿だと感じることもあれば、逆に若菜先輩を愚かに思うかもしれない。家族の形に正解はないので、どちらの姿勢が正しいという結論はあえてつけずに余白を残しました。いろいろな反応が出てくれば、と思います」
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自問自答の苦難と愉悦
2018.06.27書評 -
自らのルーツ「吹奏楽」を描いた作品で松本清張賞を受賞
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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