よく誤解されていますが、美術を含む芸術というものは、れっきとした学問です――それも相当難しい種類の。
難しさの理由は次の三点から説明できます。
第一に「問題」がないこと。何を問題とするべきかは、自分で決めるしかないのです。作中で描写されていた、花房美術大学の合評会の光景を思い出してください。「やることはいたってシンプルだ。年に三回、作品を描いて提出する」(一七八頁)とあることからもわかるように、教授や講師は表現の最低限の方向性(この場合は絵であることでしょうか)や回答の期日だけを示しており、「何を描くか」や「どう描くか」、そして「何のために描くか」は、すべて自分自身で考え、見つけ出すより他にないのです。
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