「結婚したい」って、それだけで面白いネタになりますから、この本の中でも何度か友達の結婚披露宴に行ったこととか、担当編集者の結婚をひがんでみせたりしてます。でも、本当に切実でしたよ。
例えば今だったら、30年前と男女とも価値観が違うから、年下の男の子と籍だけ入れて一緒に住んで……っていうパターンもあっただろうけど、当時はそんな時代じゃないし、コンサバな家庭に育った私としては、同棲するのも嫌、仲人たてて式を挙げるのが結婚というものだとしか思ってなかった。例えば、外国人のエリートと結婚して、ハーフの子供を持って……あるいは建築家の夫を見つけて鎌倉に家をたててもらって、娘2人を私立に入れて……とか、この本の中でもいっぱい妄想してます(笑)。
おかげさまで、36歳の1月に今の主人と出会って、5月には結婚することができました。妄想と違って、普通のサラリーマンの口うるさい夫ですけど(笑)。妄想から現実へと、あっという間に……。
毎週のエッセイにも、それまでは自分のことを書いていればよかったけど、家族を持ってからはなかなか難しいですね。家庭はさらけ出せないし、あんまり本気で夫の悪口書いたらだめだし(笑)。
エッセイって、テクニックがいるんですよ。そんな簡単なもんじゃないんです。昔からよく「林さんはいいよね、ちょこちょこって身の回りのこと書いてお金がもらえるんだから」って言われるとムカつくんだけど(笑)、誰でも書けるもんだと思ってる人は多い。
実際、今はみんなブログで自分の日常を綴ったり、タレントさんが初めてエッセイ本だして、「エッセイスト」って名乗ったりしてますからね。でも私は、人気ある雑誌に連載を持ってて、本も3冊くらいは出してないとエッセイストって名乗ってはいけないと思う。つまり、お金をとれるものを書いてるかどうか。それが重要なことです。
だから、この本の中の、80年代の自分には、「頑張ってるね、いいんじゃないの」って声をかけてあげたい。今、身の回りにこういう人がいたらちょっとウザいけど(笑)。
私だって、ああ今週はだめなもの書いちゃったな、という時も当然あって、毎回ヒットを打てるわけじゃない。でもとにかく、1塁ゴロでもなんでも、前に進める。
現在、夫と子供を持つ身になっても、相変わらず毎晩のように外に出かけて美味しいものを食べたり、新しい人に会ったりしてます。夫がいっつも不機嫌になって「もういい年なんだから体こわすぞ」って怒ってますけど、年とったからといって守りに入らず……30年経っても「ベテランの書いたありがたいエッセイ」にはならないのが、秘かな誇りなんです。
(語り下ろし)
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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