真実味を感じさせる「不思議」
──『あした咲く蕾』のキャッチ・コピーは「世界一うつくしい物語」です。ホラーではありませんね。
朱川 自分で考えたコピーですが、あえていうと「物語」というより「本」なんですよ。「世界一うつくしい本」を作りたかったんです。僕が書きたいのはホラーではない、ということを、担当編集者と話したときに、世の中で美しいことって何だろうと考えたんです。それは「赦(ゆる)されること」と「受け入れられること」じゃないかと。他にもいろいろあるけれども、罪や過去の過ちを赦されたり、何かのグループに受け入れられることが、人間にとってとても嬉しいことで、きっと美しいことなんじゃないかと思ったんです。だから、今回の話は暗く終わるものは少なくしました。主人公たちが最後に救われることが大事。ストーリーとしてもっとえぐくて面白くなるんじゃないかというものもあったんですが、やっぱり救われなきゃダメ、と。それを主眼におきました。
──表題作にもなっている「あした咲く蕾」は、人間の普遍的な想い、愛するものが命を失おうとしていると、自分の命を分けてでも救いたいという気持ちがテーマになっています。スティーヴン・キングの『ペット・セマタリー』は、死んだものを甦らせる話ですが、これはまさにホラーに主眼をおいた小説です。同じところから出発しても、朱川さんとキングはまったく違った味わいの小説になっています。
朱川 僕もキングは大好きです。『ペット・セマタリー』は不思議な小説で、奇怪なことが起きるまでが本当に怖いんです。ゲージという下の子供が生き返るまでが怖くて、その後は普通のホラー小説なんですよ。もちろん好きな小説です。
──朱川さんは人間を描く手段として、不思議な出来事を小説の中で書いているわけですね。
朱川 そうです。だから、これからは不思議なことが起こらない小説を書くかもしれません。というか、実際にそういう小説も既に書いてはいます。あくまでも表現方法の一つと考えています。ただ、不思議なことは好きですよ、基本的に。
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