特定の世代を直撃する「ことば」
──小学校、中学校でプレハブ校舎はあちこちにありました。
朱川 子供が多い時代でしたから、きちんとした校舎を建てるのが間に合わなくってということですよね。少子化のこれからはありえないものですね。
小説にこういう言葉がたくさん出てくるので、世代によっては「朱川さんの言っていることは古くてぜんぜんわからない」という人もいるようです。まあ、そういう方は時代小説のような気持ちで読んでいただけるといいかもしれません(笑)。僕の作品で『わくらば日記』(角川書店刊)というのがあります。昭和三十二年くらいからのことを書いているんですが、僕も調べたり人に聞いたりして、自分の頭の中で時代をつなげて書き進めています。インターネットで書評ブログなどをみると、古い話なんでピンと来ないという意見があります。
それはそれで仕方のないことですね。それは、時代小説や海外の小説も同じだと思います。スティーヴン・キングの小説には、その世代しか知らないようなキーワードがよく出てきます。ましてや、僕ら日本の読者は国が違うわけですから何のことやら、ですね。アメリカのキングの同世代が読めば、ああこれこれ、ということなんでしょう。キングに『アトランティスのこころ』という作品があります。この中にはそういうキーワードがいっぱい出てくるんです。日本の読者もある程度想像してわかるかもしれないけれど、アメリカ人のようにはわからないはずです。僕自身、スティーヴン・キングの信奉者なんですけれど、そういうある世代だけには直撃するようなことを書きたいというのはありますね。
──キングも朱川さんの作品も特定の単語の背景はわからなくても小説として面白く読めます。
朱川 それはいつも心がけています。この時代のこれがわからなかったら作品の価値がわからないということは極力ないようにしています。
──「虹とのら犬」にチョコレート盗難事件、小学二年生が学校で濡れ衣を着せられる話が出てきます。
朱川 それはまんま、僕の実体験なんです。やはり小学二年生のときのことで、記憶を封印していたんですが、あれこれ書いているうちに思い出してしまったんです。あれがなければもっと楽しい子供時代だったんじゃないかなと思うこともありますね。それから、「空のひと」の夢の話も僕の叔母の経験から材を得ているんですよ。
──実体験、聞いた話も含めてですが、それを小説に盛り込むことが多いんでしょうか。
朱川 ゼロからたたき上げることもありますが、やっぱり自分の心に響いたことでないとしっくりこないですね。「カンカン軒怪異譚」も、僕は餃子(ぎょうざ)の王将が好きなんですが、餃子の王将のチャーハンの作り方が本当にカンカンと威勢がよくてうるさいんですよ。店員が若くて元気な作り方でいいなあと思うんです。彼らが作った料理を食べて、何か力をもらっているように感じますね。それで、思いついた話です。
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