- 2014.03.14
- 書評
「私たちは会社を捨てる」
ハーバード卒から新しい主婦へ
文:ノンフィクション編集部
『ハウスワイフ2.0』(エミリー・マッチャー 著 森嶋マリ 訳)
ジャンル :
#ノンフィクション
不況が長引くアメリカにおいて、20~30代の高学歴女性のあいだで“主婦回帰”の流れが起きている――衝撃的な事実をハーバード大卒の女性ジャーナリストが詳細にレポートし、ニューヨークタイムズ紙やニューヨーカー誌から絶賛され有力紙誌にて大論争を呼んだのが本書である。
著者のエミリー・マッチャーは、弁護士、金融、IT、官庁などのエリート職に就いた同世代女性が、そのキャリアをあっさりと捨て続々と専業主婦へと“転向”していることに気づき、このテーマに取り組んだという。
本書には冒頭から、多くの実例が登場する。法律事務所に復帰せず自宅キッチンでカップケーキを作って売り出した31歳の新米ママ、広告関係の仕事を辞めて、クラフト・フェアで手編みのマフラーを売るようになったブルックリン在住の女性などである。
彼女たちに一体何が起こったのか。アメリカの女性進出の流れは後退してしまったのか。
背景には、ベビーブーマーにあたる母親世代への強い反発があるという。男性優位の企業社会でガラスの天井をぶち破るために、家庭や健康を犠牲にして猛烈に働き戦い続けてきた母親世代。しかしこれはしあわせな生き方だったのかと、娘世代は疑問に思う。
マッチャーはまた、自分たち若い世代を直撃した労働環境の悪化についても訴える。熾烈な就活に、こき使われての長時間労働。ガラスの天井はいまだ厚く、キャリアアップも望めない。日本と違い、育休・産休がろくに整備されていないから、ママ社員になるとお荷物扱いされ、職場から追いやられてしまうのだという。
だが彼女たちは、旧来の会社組織から「選択的に戦線を離脱」したのだと主張する。すなわち、いまの時代に専業主婦になるのは、企業社会を捨てて人間らしく生きるためのムーブメントであり、新しい生き方なのだ、と。それゆえバージョンアップの意を込めて、ハウスワイフ2.0とマッチャーは名付けている。
彼女たちは、在職中に培ったビジネススキルを生かし、ネットを駆使し在宅起業もする。販売するのは自分たちが手作りした編み物や食器など。セレブ主婦ブロガーとして社会的影響力を発揮する女性もいる。
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