──この本は、若林さんが昨年、「週刊文春」で取材したことを軸に書かれています。ドキュメントとして、雇用・能力開発機構のことですとか、あるいは21世紀職業財団の箱もののことですとか、極めて詳しく書かれていて、テレビではわからない仕分けの聞き取り調査のことなどが伝わってきました。テレビで一般の人たちが持った仕分けのイメージは、蓮舫(れんほう)さんの怖い顔とか、提案に対する科学者の怒りの反論とかでした。テレビに映らない部分で若林さんが国民に訴えたかった仕分けというイベントの本質とは何だったのですか。
若林 これまで厚いベールの下に隠れていた、天下り団体の実態、おかしな税金の使われ方が国民の目にさらされたということです。政治家と官僚が密室で行ってきた予算作りが国民に公開されたことです。例えば蓮舫議員がスーパーコンピューターの開発経費を削ろうとしました。文部科学省は「一位を目指すことで国民に夢を与えることが必要」と抵抗しました。あの当時すでに一位になれないことが文科省内部でわかっていた。それを隠して追加予算を五百億円投じようとした。嘘の説明をしていたんです。でも、仕分け人のなかに、「スパコンの申し子」といわれる人がいて、それもとっくに見抜いていた。だから「このままなし崩しにお金を投じるよりも、本体製造にかかる前にもう一回開発計画を見直しなさい」と指摘しました。そういった議論の過程はある程度長い文章にしないとわからない。蓮舫さんの険しい顔、あるいはノーベル賞受賞学者の怒った顔の一瞬の映像だけでは伝わりません。
それと、実は事業仕分けというのは民主党が始めたものではなくて、去年自民党が始めたものなんですね。そのときから仕分け人が漏らしていたのは、「あまりにも天下り団体による中抜き、あるいは天下り人件費が多くて、事業の本質に関する議論ができない」ということだったんです。仙谷(せんごく)大臣らはそれを排除すると言っていたんですが、ほとんどできずに終わってしまいました。それをもう一回、四月と五月の事業仕分け第二弾でやろうっていうんですけれども、言い訳して先延ばししているだけで、やる気あるのかなという疑念を持っています。水戸黄門みたいな、官僚いじめの一時間ドラマで支持率アップを狙って終わりなのではと。
──若林さんがこの本のなかでお書きになっている二つの提言は、予算にシーリング、上限をつくれということ、それから公務員の改革です。一つは賃金カット。それによって七兆円ほどの経費がカットできると。それから公益法人の整理、国と地方の事業の重複を省けと提言されています。
若林 民主党政権が「シーリングを設けない」と発表したときは財務省の人も驚いたそうです。毎年自民党政権ではシーリング、予算の上限を設けていました。例えば一般会計の上限は八十兆円と決め、その中で官僚にやりくりをさせる。事業仕分けのようなことをわざわざしなくても、一定額内に抑えることができます。鳩山首相もマニフェストで無駄を削ると約束し、「初年度七兆円は固い」と言ったのだから、「七兆円削れ」と号令を一言かければよかった。そうすれば「自分たちは七兆円を削るしかない」と官僚が口々に言うんですね。必要な予算を削って天下りは温存とか、削り方がおかしければ政府がそれを正せばいい。シーリングを設けなかったことによって、官僚が好きなだけ予算を上乗せしてきた。それから民主党も自分たちの子ども手当だの道路建設費の復活だの、ばら撒きを上乗せしてきた。もうここでまったく歯止めがなくなってしまいました。
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