井上日召のカリスマ
本書ではまず、血盟団を率いた井上日召の若き日々から話を始めました。井上はカリスマ宗教家ではありますが、彼に従った人々は、その超能力や霊感を信じたわけではなく、人間・井上昭が悩み感じてきたことに共感したと考えたからです。実際、井上は青年たちを時に叱りつけ、拒絶をすることもありますが、同じ悩みを経験した人間として彼らに接していたことがわかります。
井上準之助を暗殺した小沼正は、孤独な若者でした。そんな彼が出会ったのが、村の青年たちのリーダー古内栄司です。古内たちの仲間に入り、彼らが井上日召に傾倒すると、小沼も感化されていきます。小沼は仲間と一緒にいることが楽しかった、それがテロに結びついてしまったのです。
団を暗殺した菱沼五郎は、鉄道の運転手になる夢を絶たれたばかりでした。人生の目標を失い茫然自失となった彼を救ったのが、井上の教えでした。
彼らの悩みは、決して他人事ではありません。就職活動の失敗や格差問題、人間関係の問題は、今でもあるものです。血盟団の人たちはその原因を「特権階級」に求めました。特権階級を排除すれば、すべての悩みは解決すると考えたのです。
彼らの苦悩そのものは、理解可能なものです。しかし、その出口が暴力になったことは、私にはどうしてもわからなかった。この本では、井上日召と彼に従った若者たちの思索の過程をできる限り、忠実に再現したつもりです。
血盟団事件を歴史の中の出来事と捉えるのではなく、私たち自身の姿と重ね合わせながらお読みいただければと思います。
プレゼント
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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