インタビューほか

ネガティブ研究者が解明する「人類進化最大の謎」

「本の話」編集部

『言葉はなぜ生まれたのか』 (岡ノ谷一夫 著)

ジュウシマツの歌には「文法」があった

──それにしても、トリの聴覚の研究が、なぜヒトの「言葉」に結びついたのですか?

岡ノ谷  これまたネガティブな事情が背景にあります。トリの神経科学の分野では、キンカチョウというオーストラリア原産の小鳥を用いるのがグローバル・スタンダードです。当初は私もキンカチョウをつかってトリの聴覚と発声の相互作用を研究したいと思っていました。しかし、日本の大学の狭い研究室には小さなトリカゴしか置けません。小さなトリカゴの中にキンカチョウを何羽も入れると、喧嘩して殺しあってしまう。頭を抱えました。

  そこで、キンカチョウを繁殖させるための仮親としてつかわれているジュウシマツに目を付けたのです。ジュウシマツは性格が温和で、狭いトリカゴにギュウギュウ詰めにしても喧嘩しませんから。

  そもそも、アメリカの研究機関は日本のそれに比べ、研究予算も規模もケタ違いの大きさです。そんなハンデの下で細々とキンカチョウの研究を続けても、勝ち目がないのは明々白々。で、仕方なく「ならばジュウシマツで一旗揚げてやろう」と考えた。そしてジュウシマツの歌の構造の中に、ヒトの言葉とよく似た特徴を発見したのです。

──まさに偶然の産物。ネガティブで行くのも悪くないですね。ジュウシマツの歌からは、どんなことがわかったのでしょう?

岡ノ谷  まず、ジュウシマツは発声のしかたを習得する能力をもっていたということです。言葉をつかえるようになるには、耳で聞いた音声をマネして発声できる能力が必要です。イヌやネコはもちろん、知能が高いチンパンジーですら耳で聞いた音をマネして発声する能力はありませんが、ジュウシマツにはそれができた。

  もうひとつ、ジュウシマツの歌には「文法」があることです。ヒトは文法に即して単語を並べ替えながら言葉を操っていますが、ジュウシマツも短いフレーズを一定の規則で並べ替えながら長い歌をうたっていることがわかりました。

言葉はなぜ生まれたのか
岡ノ谷 一夫・著 , 石森 愛彦・絵

定価:1500円(税込) 発売日:2010年07月14日

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