──ジュウシマツの歌に「文法」があるとは驚きです。
岡ノ谷 この発見も偶然の産物でした。千葉大学で助教授をしていた十五年ほど前、まだ手探りで研究していた頃ですが、たまたま同僚の言語学者とディスカッションする機会がありました。私がジュウシマツの歌の構造について話したところ、突然、彼が「それは有限状態文法という方法であらわせるんじゃないか?」と、スラスラとボードにアイデアを書きだしたのです。この驚きはいまでも鮮烈に記憶していますね。そのとき、「動物の歌や鳴き声の構造を解明して行けば、かならず言葉の起源にたどりつける」という確信がめばえました。
ヒトの祖先は「歌うサル」だった
岡ノ谷 それからはジュウシマツだけでなく、ハダカデバネズミやデグー(ネズミの一種)など鳴き声に特徴がある動物に手を広げていきました。これらの動物の鳴き声には、「意味」や「社会性」など、ヒトの言葉に共通する特徴がみられるのです。二〇〇四年に理化学研究所に移ってからは三十人前後の研究員を抱え、ヒトの脳についても研究を積み重ねていきました。その結果、ヒトが音の流れの中からメロディーを抽出するときと、文章の流れの中から単語を抽出するときは、脳の同じ部分が働いているということもわかってきた。
こうした研究結果から、ヒトの祖先は歌のようなものをうたっていたに違いない、つまり「言葉は歌から生まれた」という仮説が非常に有力だという結論に至ったのです。
──聖書の文言としては「はじめに言葉ありき」ではなく「はじめに歌ありき」だった、と。美しい仮説ですね。 ところで本書のあとがきで、「ほんとうに知りたいのは『こころ』の問題なのです」と書いておられます。「言葉」と「こころ」は、なにか関係があるのでしょうか?
岡ノ谷 おおいに関係あります。われわれの「こころ」、つまり自意識が形成されるうえで、「言葉」は非常に重要な役割を果たしていると考えられます。「言葉の起源」の次は、いよいよ「こころ(意識)の起源」の解明がトピックになるでしょう。次回は『こころはなぜ生まれたのか』という作品をぜひ書いてみたいですね。
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