- 2010.10.20
- 書評
人生を選択する瞬間
文:森 健 (ジャーナリスト)
『ぼくらの就活戦記――難関企業内定者40人の証言』 (森健 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#政治・経済・ビジネス
就職活動が自身の人生経験に深く根ざしている人も少なくなかった。
ガーナ、イタリア、タイと中学二年生になるまで諸外国で過ごしたことで、日本人としてのアイデンティティを意識してソニーに入社した男性社員。生命科学の研究から生活の質の向上を志向しつつ、子どもから高齢者までの事業に魅力を見出したベネッセの女性社員。留学生との交流体験から自分の生きがいは日本の良さを海外に伝えることだと確信し、日常的に海外と接触できる道を選んだJTBの女性社員。
本書には「こうすれば受かる」といったマニュアル的な記述はない。個々の企業の理念やスタンスも異なれば、学生のそれも異なる。一貫した法則など見出せるわけはないのだ。けれども、通して読んでみると、彼らがなぜ内定に至ったのかという理由がくっきりと浮かび上がってくるし、そうした人たちを採用した個々の企業のDNAも見えてくる。
これから就職活動に臨む学生にとって、四〇名の活動の軌跡、考えの変遷から得られるものは大きいだろう。本書でも繰り返し強調されているように、先輩や友人の経験譚ほど役立つものはないからだ。その意味で、本書は「読むOB訪問」として位置づけることもできる。
では、すでにそんな時期を過ぎてしまった人にとってはどうか。筆者が述べるのもおこがましい話だが、就職から二〇年三〇年と時間が経った人でも、本書はきっと面白く読めるのではないかと思う。
なぜか。本書は、若き日に人生を選択するその一瞬、重要な一歩を踏み出すその瞬間ばかりが語られたものだからだ。それは筆者自身、取材の過程でひしひしと感じていたことでもあった。
立花隆氏は『二十歳のころ』の中で次のように書いている。 「やっぱり『二十歳のころ』というのは、どの人にとっても、その人の人生が、不定形の可能性のかたまりから、ある形をなしていく過程での最もクリティカルな時期なのである」
そんな一瞬が集められた話が魅力的でないわけがない。
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