──年上の男性との恋愛も核となる要素ですが、十七年前にただ一度関係をもったきりの男を内縁の夫と称する綿貫さんとそれを否定も肯定もしない晴雨さん、という二人の関係は複雑で、単なる恋愛とも言いがたいのでは。
島本 綿貫さんが内縁の夫という言い方を使うのは、名前付けできない関係性に無理やり何か名前を付けるという意味が強いと思うんです。
──“名前付けできない関係性”というのはラストで二人が選ぶ意外な決着にも通じるところがありますね。
島本 はい。あのラストに関しては割と最初から決めてました。二人はずっと今のままではいられないだろうし、かといって現実的な解決ができそうにもない。じゃあどうすれば……と考えると、一見は異常な選択であろうと彼らが信じる彼らなりの幸福を描こうと。
これまで、割と常識的なところに主人公が着地したり、堅実な気持ちになったところで作品を落ち着かせることが多かったんです。でも、ずっと書いてきてそれだけでは解決されない世界というものが確実にあると実感したときに、主人公たちは筋が通っていると思っているし話の辻褄(つじつま)もあってはいるけど、外から見ると全く滅茶苦茶なことを言っている、という特殊な関係性や物語を書いてみようと思いました。ものすごく個人的な幸福感というようなものを目指して。
──性格最悪の美人に唆(そそのか)されて駆け落ちする大和(やまと)君、過去の傷から男嫌いになり女子高生と付き合うも戸惑いから逃れられない椿、ぽっちゃり大柄で自分に恋など似合わないと卑下しつつ大和君に片想いをする鯨ちゃん……と一筋縄ではいかない恋をしている下宿人も個人的な幸福を探す人々ですね。物語は「青少年のための手引き」で大和君が大学進学のために北海道から引っ越してくるところから始まります。
島本 大和君の視点からすると、彼が何かを知って失って少し大人になるまでの物語です。東京しか知らない私にとって、地方から知らない土地に来て違和感があったり、だんだん馴染んだりという過程で自分自身が変わってくるというのは物語として魅力的で、小説に取り込みたいと思いました。
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