「一徹」「女女官」「iroha」……紹介されている性の“新語”の数々は、世のオジサンたちにとっては初めて目にするものばかりでしょう。私自身も現在の性のトレンドについて知らないことがたくさんあり、ページを繰るたびに新しい発見をすると同時に、「なるほど、こうやって伝える手があったか」と膝を打ちました。

 私は産婦人科医として、セックスカウンセラーとして、女性の性の悩みに相対するなかで、「性欲がなく、セックスファンタジーもない女性」とよく出会います。夫とはセックスレス、でも子どもはほしい……。そんな彼女たちの話に耳を傾けて行くと、そもそも性欲というものを自覚したことがないのだとわかってきます。夫のために子づくりのためにセックスしなければ、という義務感はあっても、本人に「したい」という意欲がないのですから、埒があきません。

 そこで私は、アダルトビデオなどの映像作品を観る、という宿題を出します。彼女たちのなかにあるであろうセックスファンタジーを掘り起こすための作業です。ここで問題になるのが、男性向けの映像は描写が暴力的だったり、あまりに男性本位だったりして、女性が恐怖してしまうこと。これでは官能の扉が開くことはありません。ゆえに、女性の感性で作られた作品を紹介してきましたが、そうするとその次のカウンセリングで「こういうシーンにドキドキしました……」と教えてくれることがあるのです。

 自分の性嗜好や性癖を知らないままセックスをすることがいかに難しいか。性欲やセックスを“よくないもの”として認識している女性たちが、愛するパートナーとそれを介したコミュニケーションを成立させるのが、いかに困難か。それを痛感している身として、本書は、そんな袋小路から抜け出すきっかけになりうる1冊と感じられました。漫画や小説の世界でも広がり続ける女性のセックスファンタジー。そのどこかに嗜好と合致するものがあるのでは？ ときには魔物もいる性の世界に分け入っていく際の、地図としても利用していただきたいです。

 女性が自分の性嗜好を知るだけで、パートナーとの擦り合わせもしやすくなり、生殖もスムーズにいきます。女性が性欲をオープンにし、性を楽しむことは、社会的に見てもこうしたメリットこそあれ、デメリットはありません。お互いの性欲を認め、「男性も女性も同じだよね」と言い合えるそんな社会に早くなってほしいものです。

『セックスペディア』
三浦ゆえ＋平成女子性欲研究会・著

定価：1,100円＋税 発売日：2014年03月12日

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