次に考えたのは、学校だった。深夜の学校、それも廃校の決まった校舎だと、更に魅力が増す。使えるのではないか。
しかしこれもすぐに行き詰まった。学校は、教室と廊下で構成されている。ひとつの教室から別の教室に移動する際に、必ず廊下に出なければならない。だったら主人公たちは、操縦者が移動するのを廊下で待ちかまえていればいい。ダメだ。五十枚以内で完結してしまう。
学校は使えなかったけれど、雰囲気は捨てがたいものがあった。校内で使える場所がないか、あれこれ考えた。そこで考えついたのが、図書室だ。図書室ならば書棚がたくさんあるから、死角を作りやすい。しかも書棚の影からこっそり操縦することも可能だ。とはいえ図書室は狭すぎる。それならば、いっそのこと図書館にしてしまえばいい。図書館ならば、ほとんどの読者は行ったことがある。舞台として、想像してもらいやすいだろう。
舞台を図書館に決定した僕は、早速心当たりの図書館へロケハンに行った。いち利用者として入館している以上、怪しい行動は取れない。本を探すふりをしながら、構造をメモし、サイズを歩数で測った。結果を基に、ストーリーを組み立てていく。これだけでも執筆できそうだったが、僕は不安だった。来館者が入れる場所だけが図書館ではない。職員のみが入れるバックヤードも確認しておく必要があるのではないか。以前、水族館をロケハンしたときには、裏側見学ツアーがあった。しかし図書館には、そのような企画はない。
そこで思い出した。図書館の休館日は、月曜日だ。それならば土日の取材を受けてくれるのではないか。希望を編集者氏に託すと、快く応じていただけるとのこと。小雪のちらつく土曜日に、僕は質問内容をびっしり書き込んだノートを手に図書館へと向かった。
結果として、取材は大成功だった。バックヤードも確認できたし、実際に勤務している職員の方の話を伺うことで、物語によりリアリティを与えられた気がする。
というわけで、本書『ブック・ジャングル』は、初の冒険小説兼、初の正々堂々と取材した作品となった。作家として何を今さらと思うけれど、やっぱり取材は大切だと思い知った。
では、今後はどうしよう。図書館のような都合のいい取材対象が、それほどあるとは思えない。第一、取材のし易さで舞台を決めるのは、本末転倒のような気がする。
兼業作家というのは、このように奇妙なことで悩まなければならないのだ。
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