「うなるカリスマ」と呼ばれた浪曲師、国本武春は昭和三十五年(一九六〇年)生まれ。本名加藤武。父は天中軒龍月、母は国本晴美、ともに浪曲師だったが、中学生時代は、ブルーグラス(アメリカのカントリー音楽)に熱中する。日本工学院専門学校演劇科を卒業、東家みさ子に三味線を習い、東家幸楽の弟子となり、国本武春を名乗る。
昭和五十七年初舞台を踏む。古臭いイメージのある浪曲の舞台を一新しようとして、異端視されながらも、試行錯誤の末、リズムボックスを置き、洋装でみずから三味線を弾きながら語る独自のスタイルを確立した。
ロックのリズムで忠臣蔵を語るほか、R&B、ブルーグラスなどの洋楽のジャンルを取り入れた変幻自在の演奏と、観客を巻き込む見事な語りで場を沸かせた。
「私がいい気持ちでやってるのを見て、ワーッと笑って面白がってもらえればそれでいいんです。演じ手が風をつくってお客さんを自分の世界に引っ張り込む。”核“は、浪曲も弾き語りも同じです」(「文藝春秋」平成十八年=二〇〇六年六月号「日本の顔」より)
写真は平成十八年、アメリカのオークランドのライブで熱演したときのもの。
浪曲にとどまらず、他の分野にも積極的に身を投じた。NHKの子供向け教育番組「にほんごであそぼ」に出演、「うなり」「ベベン」の名で子供たちからも親しまれた。
平成十一年(一九九九年)、NHKの大河ドラマ、「元禄繚乱」に俳諧師宝井其角役で出演。平成十二年には、宮本亜門演出のミュージカル「太平洋序曲」にも出演、作曲した音楽家スティーヴン・ソンドハイムが観劇し、最高の出来と評価した。
平成二十二年、ウイルス性脳炎に罹り、舞台から遠ざかったが、約半年後に復帰した。記憶障害を克服しながら、現代に通用する浪曲の再構築を目指し、奮闘努力を再開する。しかし、平成二十七年十二月十二日、東京公演直前脳出血により、手足の痺れを訴えて入院。二十四日死去。
志半ばで世を去った惜しまれる異才だった。
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