――「いろ艶筆」は内容も深いと思いますが、リラックスして書かれている印象です。その中で性について書くことの難しさ楽しさはありましたか。
「僕にはウィットに富んだ洒脱な艶笑話は書けません。逆に私小説の延長線上にある堅めのものを書こうと初めから思っていました。小説に近づけた猥談という雰囲気を意識しましたね」
――題材も私小説の王道ですね。
「ええ、『ヰタ・セクスアリス』じゃないですけど。連載していた時に、西村さんは何を書いても同じですね、私小説的ですね、と言われました。当然、意図してやっていることなんです」
――この随筆集の中で特に気に入られているものはありますか。
「葛西善蔵について書いた『凶暴な自虐を支える狂い酒』と『一日』です。前者は精神的に落ち込んでいるときに書きました。受賞よりも前のことで、ある文芸誌に干されて、他の文芸誌では担当者が割り当てられなくなり、最悪の時期でした。編集者に嫌われていた葛西善蔵に自分を託して書いています。後者は受賞直後に受賞前のことを書いたので、ちょっとアンフェアな部分があります。フィクション的とまではいきませんが」
――お好きな随筆の書き手は。
「やはり僕は私小説家が好きなんです。まず藤澤清造は別格で、葛西善蔵は随筆よりも小説の方が面白い。尾崎一雄と川崎長太郎は随筆も面白いですね。2人とも随筆が私小説の延長線上にあります。僕も彼らの随筆のスタンスを心構えとしてはなぞっていますが、テクニックが及ばないので、憧れとして愛読しています」
――本書の中でも私小説というものについての考察が繰り広げられますが、あらためて、私小説とは何でしょうか。
「“私”で書いてあれば私小説と思う人がいますが、それは論外として、定義としては難しいですね。自分を投影していればいいというわけではないでしょう。定義一つにしても奥が深いですね。ざっくばらんに言えば“自己申告”ではないかな、と。自分で看板を掲げれば私小説家。強いて言えば私小説家とは“私”についてずっと同じことを書き続けている作家でしょうか。商業誌で、殊に私小説を書き続けるのはそれなりの覚悟が必要です。僕は私小説と心中したいので、最後まで今の姿勢を全うしたいと思っています」
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