受賞後も推敲を重ねる
さて原稿が完成してからは、どの新人賞に応募しようかと悩んだ。
大学4年のとき、就職活動からの逃避で100枚ほどの小説を書き、純文学の新人賞に応募したのを皮切りに、1作完成するたびにどこかの賞に投稿してきた。書ける時と書けない時のむらはあったが、小説を書こうという気持ちはずっと持ち続けていた。
応募する賞に合わせて作品を書きはじめることが多かったが、今作は、どことは決めず書き出した。というのも、書いている本人にも、どういう傾向に仕上がるのかわからなかったからだ。
それがよかったのだろうか。青春ものでもミステリーでもなく、たぶんホラーでもない。結局ジャンルがわからなかったので、1番間口が広そうな「ボイルドエッグズ新人賞」に応募したところ、受賞の知らせをいただいた。
そこでめでたしかと思いきや、それからは推敲の日々のはじまり。私が受賞した第15回から、受賞作は複数の出版社が参加する競争入札にかけられることになっていた。入札制度に参加しているのは、いずれも有名な出版社ばかりだ。そのどこからか本を出してもらえると思えばテンションが上がるが、どこも入札してくれない可能性もある。とにかく完成度を高めるしかない。
不安に苛まれながら改めた原稿が、各出版社に送られた。しばらくして複数社の入札があったという知らせを受け、ありがたいことに文藝春秋で出してもらえることになった。文藝春秋がある紀尾井町は東のほうか。そちらに足を向けて眠れない……と思いながら、その夜は安眠したのだった。
しかし、ここでもほっとしたのも束の間。今度は文藝春秋の編集者と原稿のやりとりをし、さらに推敲と改稿を重ねた。受賞の知らせからおよそ8カ月。ようやく書店に並ぶことになった。
先日、この物語を書くヒントを与えてくれた神社に参拝した。やはり小さいおじさんは見つけられなかったが、拝殿にて原稿が本になることのお礼を述べた。
見えないおじさんに向かって、二礼二拍手一礼。
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