知っているようで知らない書店のことについて、全国各地の書店員さんが顔出しで回答する「10人の書店員に聞く<書店の謎>」。今回は、棚の管理についてお答えいただきました。
書店に行ったものの探している本が見つからなくて……と困ったあげくに書店の人に聞いたらたちどころに出てきて感動! そんな経験を持つ人も多いのではないでしょうか。こんな質問をいただいています。
本のタイトルで○○ってどこにありますかって聞くと、すぐに教えてくれる店員さん がいますが、本の名前や出版社名は全部頭に入っているんでしょうか? (北海道 30代 男性)
岡一雅(MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店)
棚を最初から作れる技量を持つベテランクラスは、恐らく頭の中に入っているのだと思います。自分が想い描く書棚があって、常に棚メンテを怠らず、売れ行き動向も把握している。上司の商品入替作業や問い合わせ対応を見る度に、私達は只々舌を巻くしかありません。
高橋佐和子(山下書店南行徳店)
私も常々すごいなぁと思っています。当店の店長がまさに何列目のどのあたりと答えているのを目の当たりにしているので……。自分が読んだことのある本や興味があって見ていた本に関しては覚えるというより染み込むような感じです。大体ジャンルで絞り込めますし、担当の場所であれば、本人が毎日触れているのですから、何となくは分かるようになります。音楽好きな方なら沢山あるCDの中から聞きたいものをぱっと取り出せるような感じです。片付けの苦手な方が、「何でわかるの!?」と思う山から爪切りを発見されたり、リモコンを見つけたりする感じ。でも、意気揚々と「こちらです」とご案内して、前日に他のスタッフが出版社に返してしまっていて、きまずい時間が流れた失敗も何度もしています(笑)。
内田剛(三省堂書店神田神保町本店)
自分の担当ジャンルであればある程度は即答できますが、これだけ出版点数が増え続けるとその職人技にも限界が。最近では朝ごはんのメニューも忘れがちで自ジャンルも怪しく……書誌検索に頼る頻度が増加しております(反省)。
筒井陽一(リブロ名古屋店)
凄い方は本当に凄いです。しかし洋邦硬軟、全ジャンル、ありとあらゆる事柄が頭に入っておられるかと言うとそれは無いと思います。何をあたればその情報を引き出せるかをご存じであったり、在庫現物を確認するならば、その捜索範囲を極限まで狭める事が出来たり、その上でお客様が「納得感」を得られるお答えが出来るスキルが身に付いているという事なのだと思います。でも……凄い方は本当に本当に凄いです。
富田結衣子(文教堂書店代々木上原駅店)
自分の担当ジャンルでしたら位置は自分で決めているので勿論、毎日棚を触っているので大体の在庫を把握しておりますが、それでもまだまだしらない作品があって日々勉強です。自分の担当以外のものは、特に文芸書や文庫だと、読んだことがあるものや話題作ならタイトルや出版社は記憶していることが多いです。その他のジャンルに関してはよく売れているものや、お問い合わせが多いものは自然と覚えていくことが多いです。店内を商品を持って動いているのでその時に見て覚えているのもあるかもしれません。そういえば、以前、お問い合わせを受けた際に、その商品が品切してしまっていることを知っていたので、そのようにお答えしたと ころ「パソコンでちゃんと調べて!」と言われたことがありました……。
山本善之(くまざわ書店大手町店)
個人の能力として全部頭に入っているスーパー書店員も、何処かにはいらっしゃるのだと思います。しかし売場には多くの販売員がいて、その殆どがアルバイトのはずです。問い合わせには、経験値か、趣味や興味を中心とした個人の能力を基に可能な範囲でお答えしているのが実際だと思います。チェーン店においてはこの経験値をどう効率的に広く活用していくかが課題です。
問い合わせが多数の店舗からあった→メディアで紹介された可能性が高い→特定→全店に情報発信→次からは前段階で情報を得て発信しておく。この流れは一例ですが、全国の情報を束ねることにより、お客様の関心が高い書籍に関しては、タイトルと出版社名、陳列場所が全員の頭に入ることになります。そういった最低限のことは教えていますが、そこを越えればあとは個人で積み上げたもの。私もスタッフの華麗な接客を見て驚くときがありますし、それをネタに話していて初めてスタッフの意外な資質に気付くときがあります。