「重税国家」に向かう日本

 彼の持論は、「この世の中には行きたくない場所が3つある。1つが刑務所。もう1つが病院。そして、3つ目が税務署。この3つのうち、刑務所は罪を犯さない限り一生行かないですむ。病院も病気にならない限り行くことは少ない。しかし、税務署は、国民に納税の義務がある以上行かないわけにはいかない」というもの。つまり、「決まった税金は払うしかなく、私はそのサポートしかできない」と、極めて当たり前のことを言う人間だった。多くの税理士が、「うまい方法がある」と客集めしているが、N氏はけっしてそんなことを言わない男だった。

 そのN氏が、「山田さんがそこまで言うなら」と言ってくれたので、文春新書の編集部に企画を持っていった。

 その後、彼と何度か打ち合わせをしつつ、私自身も増税に関しての取材を始めた。ところが1カ月後、N氏から「やはり無理だ。著者を降りたい」という連絡が入った。その理由は、前記した税理士と同じだった。

 私は行き詰まった。そして、この状況をそのまま編集部に話し、「もしそれでもやるとしたら、自分で書くほかないのですが」と言った。すると編集部の返事は、なんと「そうしてください」。

 文春という会社は本当に懐が深い。税の専門家でない私に税の本を書いていいと言うのである。本書は、そうした文春の懐の深さに精一杯応えるとともに、税の専門家では書けないことを書いたものだ。したがって、巷間言われている「節税ハウツー」を、多くの場合、否定している。

 相続税の節税対策とされる「不動産購入で評価額を減らすスキーム」などには極めて懐疑的だ。また、サラリーマンの節税法とされる「サラリーマン法人設立」などは効果なしとしている。さらに、優遇措置とされる「住宅ローン減税」に関しても、利用のメリットはないと警告している。「非課税口座」として人気が出た「NISA(ニーサ)」も、国による株価安定装置としか見ていない。

 現在、国外に資産を持ち出すという「資産フライト」が盛んだが、このことにも税の面から考察した。なぜ、今年から海外資産を申告せよという「国外財産調書制度」が始まったのか? 日本が世界80の国や地域と結んでいる租税条約、多国間で構成する徴税ネットワークについても詳述した。

 さらに現在、増税よりもっと問題視されるべき「マイナンバー制度」も取り上げた。これは、国民全員に1つずつ番号が割り当てられ、それですべての収入・資産、場合によっては健康情報まで管理されることだから、考えてみれば増税より恐ろしい。

 中国の故事に「苛政は虎よりも猛なり」がある。苛政(税金が過酷なこと)は虎よりも残酷で、国民を苦しめるというたとえ話である。今後日本は「重税国家」になる。そのことの意味を、本書によって改めて考えていただけたらと願う。

『税務署が隠したい増税の正体』
山田順・著

定価:750円+税 発売日:2014年03月20日

詳しい内容はこちら