ジャック・カーリイを読んだのは、この『毒蛇(どくじゃ)の園』が初めてだ。『百番目の男』『デス・コレクターズ』(いずれも文春文庫)に続くシリーズ第三作なので、熱心なカーリイ・ファンからは、入口が違うと非難されるかもしれない。
意識的にミステリーを読み始めて三十数年経つが、一人の作家をデビュー作から順を追って読んだことは、僅かな例外を除いてない。本屋や図書館で題名、装丁に惹(ひ)かれ、たまたま手にした本で、作家に出会うケースがほとんどだ。同じような読み方をするミステリーファンは、多いのではないかと勝手に想像している。
正直に言って、初めての作家を、ましてシリーズ途中から読むのは、苦痛を伴う。作者(訳者)の文体に慣れていないし、主人公のキャラクターや状況設定も分かっていないからだ。ローレンス・ブロックのマット・スカダー・シリーズで、もぐり探偵スカダーが凶悪犯罪者ミック・バルーと語り明かすシーンを読んで、その魅力を味わえるようになるには年季が必要だと言えば、分かってもらえるかもしれない。
本著も同様。ささいなことだが、主人公の刑事、カーソン・ライダーの恋人のファーストネームが「ダニエル(ダニー)」とあっては、最近、時々目にするホモセクシュアル物ではないかと身構えてしまった。すぐに勘違いは正されたのだが、こういうちょっとした躓きは、シリーズ物を楽しむために支払う木戸銭みたいなものだと心得ている。
ストーリーは、拡散していく。いずれ収束すると分かってはいても、脈絡のないように見える殺人が次々に発生する。それに、何といっても登場人物が多い。どこに行ってしまうのか、筋を間違わずに追えるだろうか、と不安を覚えるくらいだ。
その不安を和らげてくれるのが、伏線となる主人公のロマンス。主人公に感情移入させることで、ページをめくらせる。いつの間にか、作者のペースに巻き込まれていく仕掛けだ。さらに、相棒のハリーと主人公カーソンの性格設定も、安心感を与えている。カーソンは、実兄が連続殺人犯という尋常ではない背景を持つが、ハリーとともに常識人として描かれている。彼らの目を通じ、誰もが羨む地元の有力者キンキャノン家の異常性が徐々に明らかにされていく。最後の三分の一は、本を置けなくなるほどスピード感が増す。
ばらばらだったジグソーパズルの最後の一ピースが、ピタッとはまった時の爽快感がある。
読後、木戸銭を払っただけのことはあったと、満足するのは請け合いだ。
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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