舞台であるモビール市は、米国ディープサウスのアラバマ州第二の都市で、メキシコ湾に臨む港町。フォレスト・ガンプがエビ漁を始めた地であり、新鮮な魚介類を出すレストランが多いらしい。また、大リーグの通算ホームラン記録を長らく保持していたハンク・アーロンの出身地でもある。本著第一章で、カーソンとハリーが大雨の中、パトカーで次のような会話を交わす。
「生き物をつがいで方舟(はこぶね)に乗せる頃合いか?」
「今回、蚊は乗せないでおくってのはどうだろう?」
さりげない会話の中に、蚊の多い土地柄であることを織り込んでいる。
作者のホームページ(http://www.jackkerley.com/)によると、カーリイはケンタッキー州のニューポート在住。年齢は書いていないが、マンソン事件の頃に高校生だったというから、五十代後半と思われる。二十年にわたり広告のコピーライターをしてきたが、「一日に三回締め切りがある広告業界より、一年に一回の作家の方がいい」と転向した。
仕事ぶりはというと、夜明け前に起き、薄明かりの中、オハイオ川の岸辺を散歩しながら、思いついたことをレコーダーに吹き込む。家に帰ってから、夕方前まで執筆。夜は、翌日にやるべきことを整理して記録するという。本当だとしたら、大変な精勤だ。長年のコピーライターの習性で、作家としては珍しいタイプとなったのかもしれない。サイコパス(社会病質者)の犯罪をテーマにしているにもかかわらず、作品が暗くならず清々(すがすが)しささえ感じられるのは、作者の真面目な性格が反映しているような気がする。
前述したことの裏返しだが、シリーズ物を読む楽しみは、展開がある程度想像できる点にあるし、それが裏切られる点にある。ビル・プロンジーニの「名無しのオプ」、ロバート・パーカーの「スペンサー」、パトリシア・コーンウェルの「検屍官ケイ・スカーペッタ」、マイクル・コナリーの「ハリー・ボッシュ」シリーズ、いずれも然りだ。
ジャック・カーリイのカーソンも、次の作品が待たれるシリーズの一つだ。しかし、途中入場した筆者には、未読の前二作品を読む楽しみが残っている。きっと新たな発見があるはずだ。
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