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第12番

第12番

黒田 夏子 (作家)

登場人物紹介

 月白(つきしろ)のけいこ場での月白(つきしろ)のほかに首都のけいこ場での月白(つきしろ)があることに,わなに落ちてからずっとこだわってきた.朝荒(あさーら),昼植(ひるーえ),退照児(のくてりこ),もれきく人の名やできごとはつきないおもいをさそった.しゃしんなどの目にふれる機会もあり,公演のつどぶたいや素顔を見おぼえていき,ねっしんにつなぎあわせたので,見とり図はどんどんくわしくなったが,それで気がすむのではなく,ますます知りたさがつのるのだった.

 やがて創流者であった日乗(ひのり)が急死すると,もんちゃくのあげくに跡を継いだ朝荒(あさーら)の私宅へと場所そのものは移ってしまったのだが,だからといって私が出あうずっとまえから月白(つきしろ)がたちまじっていたその圏にいちどはたちまじってみたいおもいが,いくらかでもへったわけではなかった.

 群神たちの棲む天界だからのぞきたいのではなく,華やかに楽しげだから入りたいのではなく,運だのなぐさめだのを期待するのでもないと,それどころでないことがよくわかるにつれてよくわかった.わかってもなお,否みがたくひきよせられているとかんじたからだった.

 よけてもだめでとびこんでしまうしかないと,それもわなの力への言いわけめいてとうとうそこにもぐりこんだのは,むしろ青折(あおーれ)とのことにかまけて月白(つきしろ)へのせつじつさがうすれたかにおもえた時期であった.そのとき首都に移り住むについては十ものじっさい的な理由をかぞえたてることができた.首都のけいこ場へ月白(つきしろ)がおしえに出てくる曜日に私もそこへ行ってけいこをつけてもらうことは,いかにもしぜんななりゆきとおもうことができた.

感受体のおどり
黒田夏子・著

定価:1,850円+税 発売日:2013年12月14日

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