インタビューほか

京都の裏支配者“白足袋族”の実態

「本の話」編集部

『回廊の陰翳』 (広川純 著)

──何回も書き直しされたそうですね。

広川  物語の構想はある程度できたのですが、主人公のキャラクターが気に入らなかったり、書き方に迷って倒叙法にしてみたりと、だいぶ苦戦しました。結果的には若い坊さんと刑事に視点を据えた、シンプルな二元描写に落ち着きました。

二条公園の鵺(ぬえ)伝説

──『一応の推定』では物語の舞台となる土地の匂いを感じさせる描写が高く評価されましたが、『回廊の陰翳』でも主人公の僧侶が暮らす宮津や探索で訪れる日和佐などの土地の空気が巧みに描かれています。中でも物語の大半の舞台である京都は、広川さんの故郷だけに描写も一段と冴えを増していますね。

広川  私が育ったのは京都市の元中務町(もとちゅうむちょう)という、むかしは大内裏の中の中務省があったところです。御所で蝉(せみ)取りをしたり、二条城のお堀で魚釣りをしたり、家の前を掘ると瓦や土器のかけらなどがいくらでも出て来て、それをおもちゃにして遊んでいました。

  作中に善入寺という架空のお寺が出てきますが、その所在地を二条公園の向かいにしてあります。二条城のすぐ隣にある二条公園も子供の頃の遊び場のひとつで、園内に勾玉(まがたま)のかたちをした池があるのですが、この池で源頼政が鵺を退治した後で鏃(やじり)を洗ったという伝説が残っています。この伝説は作中でも紹介したのですが、じつは私がいま住んでいる大阪の長柄というところは大川(旧淀川)に面していて、近くに鵺塚があります。退治された鵺が鴨川に捨てられ、流れ着いた場所と言われているのだとか。ちょっと不思議な因縁を感じています。

──懸案の受賞第一作を書き上げ、ほっとされているところでしょうが、今後のお仕事のご予定はいかがでしょうか。

広川  今年は『回廊の陰翳』を皮切りに、何冊か単行本を刊行することが出来そうです。これから書くものとしては、『一応の推定』の主人公・村越が再登場する長篇を書きたいと思っています。『一応の推定』で保険調査もので書きたいことは出し切ったと思っていましたが、しばらくしたら「まだ書けるかな」と思うようになってきましたので。それと、もうひとつ書きたいのは裁判ものです。裁判員制度が導入されたいま、果たして冤罪(えんざい)は生まれなくなったのか、というテーマを追究したいと思っています。いずれにしても、今度はあまりお待たせしないよう、なるべく早く書き上げたいと思っています。

回廊の陰翳
広川 純・著

定価:1750円(税込) 発売日:2010年01月28日

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